第29話 旅順 第二次総攻撃 後半戦
10月20日に沙河の会戦が終わった。この1週間後に第二次総攻撃後半戦が行われることになる。
前半戦と後半戦とに別れたのは「砲弾」が尽きたからであった。
日本陸軍は数少ない砲弾を旅順と満州で分け合って戦っている。
つまり2つの軍が同時に戦えない悲惨な状態が続いていた。
沙河の会戦がこう着状態になって日本陸軍は沙河を挟んで冬を迎えた。
日露戦争後、「日本のナポレオン」と言われた源太郎はがその本家のナポレオンですら勝てなかったロシアの冬将軍と対峙したのである。
源太郎は旅順の第二次総攻撃後半戦の成功を心から祈った。
その理由は3つある
1 10月15日にバルチック艦隊が出航したこと
2 大阪砲兵工廠で製造される砲弾を満州に集中させたかったこと
3 第3軍を早く満州軍に合流させて総力戦でロシア軍と戦いたかったこと
以上の3つの理由による源太郎の祈りに答えるために第二回総攻撃後半戦が始まった。
第二回総攻撃後半戦(明治37年10月26日-30日)
10月18日、第三軍は二龍山堡塁と、松樹山堡塁の同時攻略計画を打ち立てた。
双方の堡塁は密接な関係に有り、攻撃区分では第9師団が担当であったが戦力の余裕がなく、松樹山堡塁攻撃は第1師団が担当する事にした。
23日、第三軍は各参謀長会議を行い、26日の総攻撃を決定した。
第1師団が松樹山堡塁、第9師団が二龍山堡塁と盤龍山堡塁東南の独立堡塁、第11師団は東冠山の各堡塁(但し攻撃は第1・9両師団の攻撃が成功した後)を攻撃目標とする。
この時点での主要部隊の戦力は
* 第1師団(東京) 6869名
* 第9師団(金沢) 7277名
* 第11師団(善通寺) 6940名
* 後備歩兵第1旅団 3636名
* 後備歩兵第4旅団 3368名
であった。
早朝よりの攻城砲兵による砲撃の後、まず第1師団、第9師団が攻撃を開始した。
第1師団の攻撃
第1師団では左翼隊の歩兵第2連隊が敵散兵壕の動揺を捉え突入しこれを制圧。
ここから松樹山へ坑道掘進を開始する。
ロシア側も坑道を掘り、爆薬を仕掛けて日本側の坑道を破壊するなどで抵抗した。
29日になるとロシア軍は逆襲に転じ午前7時に散兵壕を奪取される。
第1師団は直ちに逆襲に転じて午後1時30分にはこれを奪い返す。
翌30日、攻城砲兵の事前砲撃の後、第2連隊は松樹山堡塁への突撃を開始した。
周囲からの砲火を浴びながら連隊は敵塁の真下まで進出するが外壕の突破に手間取っている間に大損害を被りやむなく撤退する。
そのため外壕外岸からの坑道作業に入るが攻撃準備完了まで期日を要することになる。
第9師団の攻撃
第9師団は右翼隊の歩兵第19連隊が二龍山堡塁の斜堤散兵壕を占領し坑道掘進を開始する。
更に左翼隊も歩兵第7連隊が盤龍山北堡塁に突撃し、その1角を制圧する。
二龍山堡塁では松樹山と同様に血みどろの坑道戦が展開される。
30日、まず右翼隊が二龍山堡塁の外壕の破壊に取りかかる。しかし敵塁からの集中射撃と松樹山からの側防射撃に阻まれ占領地を確保するのがやっとであった。
他方、一戸少将が指揮する左翼隊は盤龍山東堡塁東南の独立堡塁(P堡塁)への攻撃を開始。午後1時、工兵隊の爆破した突撃路を使って歩兵第35連隊が突入。僅か2分で堡塁を制圧する。
しかし午後10時30分頃、ロシア軍が逆襲に転じ、占領部隊は将校を多数失い退却した。
堡塁下にいた一戸少将は退却の報を受けると予備の1個中隊を自ら率いて奪還に向かい、奪取に成功した。一戸少将の勇猛な活躍ぶりから、後にこの堡塁は「一戸堡塁」と命名される。
第11師団の攻撃
第11師団は待機していたが松樹山、二龍山の占領がまだなので攻撃できずにいた。
しかし既に攻撃準備が整っており、この際は多少の犠牲も覚悟して突撃すべしという結論になり、30日より攻撃を開始する。
30日午後1時、まず右翼隊の歩兵第22連隊が東鶏冠山北堡塁を攻撃しその1角を制圧。しかし第2堡塁に向かった歩兵第44連隊は集中砲火を浴びて壊滅。
中央隊の歩兵第12連隊は第1堡塁に向かう。前面の散兵壕を蹴散らしつつ進撃し砲台も占領した。
しかし周囲からの射撃を受け被害が続出し、戦線維持が困難になり退却を余儀なくされる。
31日、未だ士気旺盛な右翼隊は外岸側防を制圧。
しかし血気にはやる一部部隊が砲兵の支援を待たずに突撃し壊滅。結局第11師団も東鶏冠山を制圧できず、坑道作業に移行していく。
総攻撃の中止
日本軍は戦死1,092名、負傷2,782名の損害を出すが、ロシア軍も戦死616名、負傷4,453名と日本軍以上の損害を受けた。
乃木は各師団が坑道作業に入った事で作業完了までには期日が必要と判断。
ここで旅順総攻撃を打ち切った。
日本軍は前半戦の作戦目的は203高地以外は達成した。
しかし後半の主要防衛線への攻撃は第9師団がP堡塁を占領した以外は失敗。このため日本側は第二次総攻撃も失敗と考えた。
第3軍の乃木に期待をした源太郎はこの総攻撃の失敗を聞き、加えて目の前の沙河に展開するロシア軍を見ておそらく彼の人生で一番困難を体験し日本の将来を考えて苦悩したことであろう。
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