ちなみに、今は何時代ですか?
状況が何も分からず、生きた心地がしない。
(まさかオレは、全くの赤の他人に転生したんやろか!?)
そんな事、あり得ない筈だが、そう理解するしかないような気がする。
つまりオレはダンプに轢かれて一旦死亡し、どこぞの八郎とかいう少年に転生したのだ、と。――
「お館様には、八郎様は頭痛で臥せておりますと
先程の若侍――
オレは半身を起こす。
「実はですね、頭痛が酷くて何も思い出せないのです。自分の名前さえも」
「何と……。
「いや。皆さんに明かすと大騒ぎになるでしょうから、暫くは絶対内緒にしておいて下さい。まあ、どうせ頭痛が治まればすぐに全て思い出すでしょう……」
「なるほど。急に大きゅうなられたから、何やら調子が狂ったのでありましょうな。そう言えば手前も背が伸びた時分には、よう手足が
頭に滋養が回っておらぬやも知れませぬ、さあ飯を食いなされ……と重季さんに促された。オレは礼を言って粥を食い、汁を啜った。粥は玄米と雑穀で、味噌汁は異様に塩辛かった。食事ひとつを見ても、やはり平成の世ではない気がする。
幸いにして、オレが飯を食っている間、重季さんが気を利かし色々と「情報」を語ってくれた。
彼は一六歳で、幼少時より八郎君……即ち
お館様、つまり当
「その上総御曹司が、近々数年ぶりに京へ帰ってみえられまする」
と重季さんは嬉しそうに語るが、困ったことに、それが誰なのかオレには見当がつかない。それから二番目の兄、義賢は左大臣頼長様に仕えているというが、これまた誰と誰なのか見当がつかない。おまけにその、兄義賢と左大臣頼長は男色(同性愛)の関係だと聞き、思わず粥を噴き出してしまった。
気持ち悪くなり一気に食欲が失せ、頭を抱え込むオレを見て、重季さんは心配そうにオレを見ている。
「ちなみに、今は何時代ですか?」
「は!? 何時代……とは?」
首を傾げる重季さんを見て、オレはアホな質問をしてしまったと気付いた。そうか、江戸時代やとか室町時代なんちゅう呼称は、戦後の歴史学者が勝手に名付けただけなんや……と。
「済んまへん。愚問でした。今は何年ですか?」
「久安六年ですぞ」
うわっ。さっぱり分からん。それって
しかしまあ、これ以上質問を投げかけ続けるのは、重季さんをますます心配させることになりそうで、危険かもしれない。
オレはおそるおそる、これを最後の質問とばかり彼に問うた。
「ここはどこですか?」
「堀川六条の『源氏ヶ館』ですぞ」
ほう。――
やっと手がかりが見つかった。堀川六条ということは、多分ここは京都だ。その位はオレでも解かる。で、……源氏!?
(困ったな。源氏って似たような名前の人物が
再び、頭を抱え込む。
しかしまあ、もう一つ気付いた事がある。源氏と言うからには、時代はおそらく、平安か鎌倉ではないか?――
じっと押し黙って思案するオレを見て、重季さんは、
「まことに大丈夫でござるか? 医者か祈祷師を呼ぶべきではござらぬか?」
と言う。
えっ!? 医者はまあ、ともかくとして、祈祷師? カンベンしてくれぇ。――
「まあ、暫く様子を見ましょう。いやどうせ一時的な症状ですよ。くれぐれも
と、オレは努めて明るく答えた。
「左様なものですかのう。まあ、お大事になさりますよう……」
そう言い残し、彼は空いた膳を抱えて去って行った。
ふう。……
こう言っちゃぁアレだけど、重季さんがあんまし賢くなくて、助かったかもしれない。オレはほっと胸を撫で下ろした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます