第23話 周囲の反応 娘編2

わたしが働くジムに通うインド人のご夫婦の話。ご主人が若年性痴呆症を患らっており、奥さんが彼のお世話をしています。奥さんはときどきわたしのもとにやって来て、胸の内を語ります。「彼の記憶のなかから自分が消えていくのはつらいけど、彼が日々、違う人間になっていくのを目にし、感じるのはもっとつらいと」。


つらさとか苦労は格段違うと思いますが、うちと似てるなって思うんです。


以前、「名前が変わり、彼はいなくなった」と書きました。でもそれは間違い。名前を変えたからといって、夫であり、父親であったあの人がわたしたちのなかからぱっと消えるのではない。 少しずつゆっくり姿を消していくのです。それはとてもつらく、悲しく、切ない経験です。



さて、今回はアリッサのカミングアウトに対する周囲の反応、娘編2。娘たちは父親(であった人)の変化に羞恥心、憤りを感じ、アリッサに反抗するようになります。



娘のサッカチームの7歳児からの質問攻めで、タジタジになったわたしたち。



「悲しみに打ちひしがれてる場合じゃない」。


わたしは深く反省し、帰宅後、家族で話し合いをしました。


1、 娘たちは、今後「ダディー」と呼ぶのをやめて、アリッサの語尾を取って「リス」と呼ぶ。


2、友達からアリッサとの関係を聞かれたら父親ではなく「親戚のおばさん」または「マミーのベストフレンド」とする。


娘たちのアイデアでした。



アリッサは子供たちに自分を“mom”と呼んでほしかったようですが、これはわたしが速攻却下。


母親はわたしだけ。ずうずうしいにもほどがある 。そうじゃないですか?(そうだ、そうだと言っていただけたらうれしいです)。



この日を境に娘たちは自分の父親(であった人)を見る友達の目を気にするようになりました。


アリッサが学校の行事に参加することを拒むようになり、お誕生会やプレイデート、サッカーの練習のときのお迎えなども、母親のわたしに来てほしいと懇願するようになりました。



友達にアリッサと一緒にいるとこところを見られたくなかったのです。


こんなとき、わたしのすべきことは単純明快。


「大好きなアリッサを誇りに思いなさい」 。「堂々と胸張っていなさい。アリッサは何も悪いことしてないのだから」と娘たちを諭すこと。そしてアリッサの気持ちをくんでアリッサにもっと優しくしてあげること。


でも、あのときのわたしはそれができなかった。娘たちの「恥ずかしい」という気持ちが手に取るように、痛いほどわかったから。



アリッサは 以前と同じように、学校の行事に参加したいし、時間の許す限り娘たちの送り迎えをしたい。


娘たちはアリッサの気持ちを傷つけたくないから、彼女には直接「来ないで」と言えず、「アリッサにバレないようにマミーだけに来てほしい」と懇願する。


アリッサと娘の双方の気持ちの板挟みになって、わたしは苦しみました。



アリッサはその頃、化粧、ヘア、ネイル、ファッションなど、変身術を見に付けることに夢中で、休日はYouTubeに釘付けでした。



カミングアウトの前わたしが仕事で家を空ける週末は、娘たちを外へ連れ出し、サッカーやテニスをしたり、 水族館や動物園へ出掛けたり、なによりも子供たちとの時間を優先していたのに。


カミングアウトを機に父親としての責任を放棄して、変身術に夢中になるアリッサ。



変わっていくアリッサに、娘たちはどんな気持ちを抱いたのでしょう。


娘たち、特に長女はアリッサを無視したり、注意を受けると反抗するようになりました。


以前はふたりともパパっ子で父親にまとわりついていたのに、わたしに甘えるようになりました。


この頃の我が家の空気はどんより暗かった。わたしは太陽ママになって、家族みなの気持ちをぽかぽか温かくして、娘たちに心地よい場所を与えてあげなきゃいけなかった。でもね、できなかったんです。無理してがんばってみたけど、やっぱり太陽ママにはなれなかった。 わたし自身が暗闇をさまよってた。


この暗黒時代はやがて終焉を迎え、娘とアリッサの関係は修復されます。娘たちの第三ステージ、仲直り期についてはまたいつか書きたいと思います。


次回はわたしのママ友と友人の反応。ママ友と友人って同じですか?同じじゃないですね。


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