第22話 周囲の反応「娘編1」

「人間関係ってジグソーパズルみたいだ」と思ってます。


複雑で大きなパズルを持ってる人もいれば、シンプルで単純なパズルを持ってる人も。


子供ができるとパズルは複雑化して大きくなる。




アリッサのカミングアウトも、もしわたしたちに子供がいなかったら、それほど大ごとにならずに済んだかもしれない。


でもわたしたちには望んで授かった美しい娘が2人いる。

子供が育つ過程でアリッサとわたしのパズルはドンドン複雑化して大きくなっていました。



お互いの両親、親戚、友人、同僚、ご近所さんに加え、娘たち、その友達、ママ友、学校の先生、学校外のアクティビティーで関わる人たち。



アリッサがカミングアウトした後、美しく均衡を保っていたわたしたちのジグソーバズルがグシャッと崩れたわけです。


グチャグチャに崩れた醜いパズル。わたしたちは崩れたパズルを、時間をかけて修復していかないといけない。



今回から、カミングアウト後の周囲の反応とわたしたちの対応を数回にわけて書いていこうと思います。



まずは娘たちから。



日本人のママ友から昔受けた忠告:「ママ友からつまはじきにされるから、人前で自分の子供を自慢話しちゃダメ」。


嫌われてもつまはじきにされてもよい。わたしは娘たちを誇りに思っているので、みなに胸を張って子供自慢。


わたしたちの娘たちはいい子です。


カミングアウトの後にさらに強く感じてます。強くてとてもいい子です。



さてさて、娘たちの反応

初期:アリッサのカミングアウトを喜び、応援、サポート

中期:反発、拒否、怒り、喪失感 

現在:あきらめ、受け入れ、仲直り、仲良し


まずはカミングアウト直後(初期)。娘たちはアリッサのカミングアウトを母親のわたしが驚くほど、素直に受け入れました。 父親の決意を祝福し、応援しました。


「子供は順応性があるから」という人がいるかもしれません。


でもわたしは、カミングアウト以前の父親との関係が鍵だと思っています。


アリッサは包容力があり、忍耐強く、優しい父親でした。娘たちと一緒にたくさん遊び、たくさん本を読み聞かせ、娘たちの話にいつまでも耳を傾けいた。学校行事には、仕事を休んででも必ず参加していた。娘たちは父親が大好きでした。


以前のブログでも触れましたが、パートナーがトランスジェンダーだという事実を聞かさたのは娘たちからでした。


そのときのわたしのパニックぶりに娘たちはびっくり仰天したようです。


「ダディーが女の人になることのどこがいけないの?」といった感じに。


アリッサはカミングアウトの後、メークアップのスキル、髪の毛のアレンジ、女性らしいファッションを必死で勉強していました。娘たちは、 父親が変化していく過程を一緒に楽しんで、アイメークに、三つ編みに、朝の服選びにと、率先して、アリッサを手伝っていました。



その頃、わたしはよく家族に隠れて、トイレや寝室でよく泣いてました。バレないようこっそり泣いてたのに、娘たちに見つかってしまうこともしばしば。



泣く母親の姿に混乱する娘たち。


「ダディーのこと、どうして一緒によろこんであげられないのだろう?」


「マミーは何をそんなに悲しんでいるのだろう」。


そのとき、娘たちは「大好きなダディー」が少しずつ姿を消して、しまいにはいなくなってしまうことに気付いていなかったのです。



父親をサポートし、応援していた娘たちですが、父親の変化に気付いた 友達の反応を敏感に感じ取ってからは、アリッサに対する態度が変化していきます。



中期:反発、拒否、怒り、喪失感 

父親のカミングアウトを祝福し、女性へのトランジションを応援していた娘たち。

9月のある日の出来事を境に娘たちは父親のカミングアウトに羞恥心や憤りを感じ、アリッサに密かに反抗するようになります。


アリッサがカミングアウトしたのは夏休みのはじまる1ヶ月前。アメリカの夏休は6月の終わりから9月のはじめまで。



長い夏休の間、アメリカの子供たちは何をするのでしょうか?



サマースクールやサマーキャンプに参加。家族旅行。友達のお宅や自宅で遊ぶ(アメリカではこれをプレイデートといいます)、などなど。




娘たちもサッカーキャンプにアートキャンプ、プレイデートにビーチでの水遊びなど、長い夏休を満喫していましたが、基本的に家族で行動することが多く、カミングアウトしたアリッサが娘たちの友達に会うことはほとんどありませんでした。



この夏休みのあいだに服装、メーク、髪型とアリッサの外観は、じょじょに女性らしく変化していきます 。ただ、トランジションの途中で、すべてが中途半端。アリッサのことを知らない人が彼女を見たら「この人は女性?男性?」と首を傾げるような微妙な感じでした。



何事もなかったように平和に過ぎていった娘たちの夏休。そして新学期がはじまり、放課後の習い事や週末のサッカーなど、あわただしい日常が再開します。



娘たちは幼い頃からサッカーチームに所属していました。シーズンは9月から11月。平日に練習して、毎週土曜日は試合があります。


試合の日は、両親はもちろん、おじいちゃん、おばあちゃん、時には親戚一同が応援にかけつけ、賑やかなゲーム観戦になります。


アリッサもわたしも土曜のサッカー観戦を毎年楽しみにしていました。




ある日の出来事。試合の合間の休憩時間にわたしたち家族のもとに娘たちのチームメートが集まってきました。(わたしたちは大きなピクニックシートを広げていたので、みなこのピクニックシートに座りたかったのだと思います)。


1人の女の子がアリッサのネールを見て聞きました。


「この人は誰?」


当時7歳だった次女がためらいもなく答えました。


「わたしのダディーだよ」。


「どうして男なのに、爪にマニキュアしてるの?」


「どうして髪の毛が長いの?」


「どうしてショートパンツはいてるの?」


7、8歳の女の子たちから質問の嵐。


私はスタンガンで撃たれた悪人のように、戦闘不能になりました。心に激痛が走って。



正直、どう答えてよいかわからなかった。こういった質問に応える準備がまだできていなかった。アリッサに救いを求める視線を送ったけど、アリッサも困った顔をするだけ。


咄嗟にわたしは「ニーシャ(次女のミドルネーム)のダディーはアーティストだから、みんなのダディーとはちょっと違う格好するんだよ」とうそをつきました。



罪悪感。

娘の前でうそをついた。


悲しみの海の底に沈んた悲劇のヒロインぶって、泣いてばかりいたわたしは、一番大切なことを忘れていました。


「子供たちを周囲の好奇の目から守る」事前対策。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る