第8話 「ワルのトップになれ」と母は言った

わたしたち夫婦について書く予定でしたが、ちょっと脱線して、わたしの両親について書こうと思います。



“Resilience”(レジリエンス)という言葉があります。「逆境に打ち勝つ能力」「打たれ強さ」「回復力」と言ったらわかりやすいでしょうか。




美しさとか聡明さとか、人様に胸張って自慢できること、何もないわたしですが、「打たれ強さ」にはちょっと自信があります。七回転んだら八回起き、最初に転んだ自分より8倍強くなって、「がははっ」と笑うことができる 。格闘家で例えたら、マイクタイソンとか、ジャイアント馬場とか、具志堅用高とか、マサ斎藤みたいな強さ。



わたしのなかにレジリエンスのバネを植え付けてくれたのは、他の誰でもないわたしの両親です。




まずは母。正義感に溢れ、まっすぐで、人の目を気にせず、自分の目標に向かって突き進むもの凄く強い女性。本をこよなく愛し、看護婦時代、 本を片手に読書しながら歩いて勤務先の病院まで通ってました。




わたしの実家、栃木県小山市は暴走族だらけの街でしたが、我が家の前を暴走族が爆走するときは、必ず、古新聞を投げつけて、「近所迷惑を考えなさい!」と怒鳴ってた。(ライダーたちにはまったく聞こえてないのですが)。



小学校にあがるまで、鬼のように怖くて厳しい人で、ちょっとでも曲がったことすると、ビンタ張られたり、トイレに軟禁されたり。



ひらがながやっと書けるようになった幼稚園生のわたしに日記を書くよう強制し、

「日記に感情がまったく表現されてないから書き直し」と怒られ、泣きながら日記を書いた鮮明な記憶あり。



小学校にあがってからは、完全放任主義。忘れ物したら、確認しないわたしの責任。中学校にあがってから、体操着のぜっけん付けも、弁当作りも、母が夜勤のときの夕食もぜんぶ自分でやってました。



わたしが通った中学校はワルが多いことで有名な学校でした。母からは常に「不良になるなら、一番ワルいトップのワルになりなさい」と言われてました(真面目で大人しい普通の中学生だったのですが。「中途半端にグレルのはかっこワルいから、やるならとことんやれ、それがいやならグレるな」と言いたかったんですね)。「人と同じことするな。出る杭になりなさい」も母の名言。



大人になってから、「どうしてあんなにわたしのこと、ほったらかしにしたの?」と聞いたら、「小学校にあがる前に自立する力を叩き込んだから、あなたがぶれない自信があった」と応えた母。かっこいい自慢の母です。



父について。「お父さんとお母さんどっちが好き?」と人から聞かれると、母に気を遣い「どっちも好き」と答えていましたが、本当のことを言うと、 優しくて、わたしの話にいつも耳を傾けて受け入れてくれる父が大好きでした。父に怒られた記憶はありません。清潔で、いつも笑顔で、太陽みたいな人。




わたしは心臓病を持って生まれ、6歳のときに宇都宮の大きな病院で手術を受けました。入院期間は1ヶ月。共働きで、8歳の姉の世話もあり、常に忙しい両親でしたが、交代で見舞いに来てくれました。




見舞いに来た父と塗り絵をするのが好きで、父の塗る絵がとても美しく、「お父さんはすごいな」と感動してたらあっという間にお別れの時間になって、「泣いたらお父さんが困るから絶対泣いちゃダメだ」と自分に言い聞かせてるのに、涙がやっぱり止まらない、この繰り返し。父が見舞いに来るときは、結局いつもお別れのときに泣いてました。




地元に思川という川があって、父と川に行くのが好きでした。無口で多くを語らない人だけど、ただ隣にいるだけで心地よかった。川縁でふたりでアイスクリームを食べると幸せな気持ちでいっぱいになりました。




ラスベガスでの挙式の際、友人の女性たちから「お父さんと仲良しで羨ましい」「うちの頑固者の父とは大違い」と言われて、父が特別な人であることを再確認し、父をさらに誇りに思った。





人様に自分の両親を自慢できる機会などめったにないので、ここで思いっきり自慢話。



こんなかっこいい両親に育ててもらったおかげで、打たれ強い今の自分がいます。

パートナーのカミングアウトでノックダウンされてから、立ち上がって「がはは」と笑えるようになるまで、ちょっと時間がかかり過ぎたけど、今のわたしとっても強いです。



ジャイアント馬場みたいに強くなって、娘たちとアリッサを幸せにするんだ!



両親に感謝。

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