スナック『紅』
千秋静
第1話
あら、今日はもうお帰り?
ああそう、お母様が・・・。それなら早く帰って万全の態勢でお迎えしなくちゃね。
違うわよぉ、キャンティ。この方のお母様は入所はしておられないの。入院されていただけなのよ。
あらら、なによぉ・・・あなたがそんな不安そうな顔をしていたら、戻って来られるお母様まで不安になってしまうわよ。
え?あなたのことを忘れている?他のこともいろいろと・・・。まぁ仕方がないんじゃないかしらねぇ、淋しいけどこればっかりは。
仕方ないものは仕方ないの!人が老いていく上での自然の成り行きなんだもの。
でもいいじゃない、あなたの名前を忘れていても、あなたのことを別の名前で呼んだとしても。今はお母様が求める誰かにあなたがなってあげなさいな。それがお母様の心に寄り添うということなんじゃないかしら?悲しいかもしれないけれど、今はお母様の心の平穏を一番に考えてさしあげるべきよ。
なーに、大丈夫!あなたの本当の名前は私とキャンティが何度でも何十回でも呼んであげるから。だからあなたもお母様の名前を何度も呼んでさしあげなさいよ。
呼び合う名前がどんなものであっても、呼び合えるあなたたちの関係に変わりはないもの。
親子の絆っていうのは、そんなに脆いものではないんだからさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます