第27話展望・決意・覚悟

「私はペイン・カスタネット氏の名を継ぎたいのです」


「この惑星のはるか昔に生きた先駆者の名ですね?」

「彼は若くして命をとしましたが」

「彼のスピリッツはいまでも、この宇宙に影響を与えています」


「はい、マザー・レイン」


「彼の名はどの記録にも文献にも残ってはいませんが」

「チーズ・クラッシュ伝承に、伝承として残されています」

「伝説として口伝により語り継がれ」

「いまでも、多くの存在の心を捉えて離しません」

「彼の家系は、何世紀も前に途絶えましたが・・・」


「私も彼の意志を受け継ぎたいのです」


「ええ、あなたの意志の願う通りにしましょう、トリン」



私たちのボデイは新しく産まれ変わった。

簡単に言うと、進化を続けるボディ。

シャムロッドは、ベースのPCにへばりつき。

星間ネットワークでお買い物に夢中。

エア・ディスプレイをニラんでエア・キーボードをブッ叩く。

エア・マウスは、部屋の何処に居ても操作が出来る。

サクラは、新しいメカトロニクス技術を夢中で学習中。

ケイトは、何もせずに私の相手をしてくれる。



ベース内のリラクゼーション施設内。

仮想夜景ビル群で今日もケイトとお喋り。

仮想ビル屋上、仮想夜景を見ながら合成・苺ジュースを飲む。

遠くに港の明かりが見える。

満天の星空が私たちを見つめる。

私たちも見つめ返す。

横長椅子に並んで座る。これだけは本物だ。

ベンチシートが硬くて冷たくて気持ちがいい。

涼しい夜風が髪の毛をなびかせる。


心が洗わてゆく・・・



「ホント、つまんない高校生活でした」


「ふーん、ケイトってマジメな女子だったんだ」


「ブッてただけですよ、艦長殿」


「でも、好きな男子とかは居なかったの?」


「居ましたよ、そりゃあ」


「で、どうなったの?」


「片思いで終わり、告白する勇気がありませんでした」


「・・・うーん」

「ケイトちゃんが学生お洋服で、ブリッコ女子なんて」

「ちょっと想像できないわ」


「あはははは」


ケイトはジュースを片手に明るく笑うけど。

私には、泣いているようにも感じる。

真っ暗で彼女の顔は見えないけど・・・




私たちが母星チーズに戻る際の、50年間の冷凍冬眠中に。

この星系で、第3次メカトロニクス技術革命があった。

ナチュラルサイエンス・テクノロジーと、

ヒューマン・テクノロジーの加速。ヒューマニクス。

それらがナノレベルで実現された。

私たちのシップも引退して、新造シップが用意される。


ラージシップ「ラインハルト」


データベースを読んでも、知らない装備ばかりだわ。

それと、私たちを宇宙でテンテコ舞いさせた。

宇宙戦闘機コンバット・フライ?も退役。


新鋭機「コンバット・フライ・5式」


もう5世代目ですって。

単座式で、重力下でも戦闘できる。

無重力下でも重力下でも使用できる汎用型。

クイック・モデファイ機構があるの。

見た目はボディサイズが一回り大きくなって。

今までの2式の流線型と違い、直線が美しい無機質なデザイン。

外からコックピットは見えない。装甲で固くガードされている。

あと、これがハイレベルテクノ。体にかかるGを無効化する。


対・Gキャンセル。「Gキャンセラー」


これがシップと5式戦に搭載されてる。

Gとは、人体にかかる重力。

擬人は結構Gは平気なんだけど。

人間は簡単に気絶しちゃうから、ケイトが嬉しがってたわね。

5式戦も予備機体を入れて、10機くらい積んでるみたい。


驚いたのが。


転送装置の実用、普及化。

何処へでもテレポーテーションできるから。

ガードシステム「アンチ・テレポートバリア」も装備。

ボディに機能が入ってるから、体ひとつでいいの。

でもレシーバーだから、シップ等で大掛かりなシステムが必要。

透明迷彩カモフラージは大昔から普及しているけど。


ベース内で、オペレーター、エンジニア、お手伝いさんの人間や擬人が大勢働いていた。



私たちは休暇をとった後、ラージシップ「ラインハルト」の出港式に出向く。

チーズの衛星「バター」の民間工場で建造。宇宙ドックで私たちの到着を待って居る。


でもその前にベテランパイロットのシャムロッドが。

どーしても5式戦の重力下テスト飛行をしたいってしつこいの。

ベースに実戦配備されたばかりの新品機体を借りて。

ケイトと私の3人で初飛行。


マザーはよく許可したわねえ・・・



「ロールアウトッ!」




「大尉殿、何ですか?このビニールは」


「あんたエアカーも知らないから無理ないわね」

「この機体が新車って証明なのよ」

「全部、引き裂きなさい!」


「ちょっとシャムロッド!もう飛行してるのよ?」


「ウキーッ!!」


無線からケイトとシャムロッドの奇声が聞こえる。

操縦せずに透明ビニールを破るのに夢中になってるけど。

機体の戦闘A・Iがフォローしてる。

コックピットを覆う透明キャノピーがないから、代わりにリアル投影モニターで全方位の視界が確保される。


「おねーさまにも操縦できるから乗りなさい」


とシャムロッドに強引に乗せられたわ。


「あと20秒でターゲットバルーンが見えてきます」

「主兵装ですべて撃墜して下さい」

「なお、スコアにより景品が貰えます」


何なの?このA・I。ジョーダンを言ってるの?


「あたしがいただくわよ!おねーさまはよく見てなさい!」


「大尉殿」

「景品のピィピィちゃんぬいぐるみは、自分が頂きます」


レーザー射撃軌道に入るシャムロッド機の前をふさいで。

ケイトの機体がレーザー射撃を開始した。


「何すんのよ!女子高生!」

「進路を塞ぐバカは、パイロット学校でお説教食らうのよ!?」


ドドッーン・・・


「ヒャッホーウ!」「ケイト、イッチバーーン!!」


あっという間に二人で全部のバルーンを撃墜しちゃった。


「わ、私のスコアは?」


確かに機動が今までの機体と違う動きをする。

何となくU・F・Oみたいな動きに似ている。

あの二人は何も言わずに、もう操縦をモノにしている。


「青空の中を飛ぶのって、鳥さんの気分ねえ・・・」



マザーレインにお別れを告げ、定期シャトルで大気圏離脱。


「もうじき見えて来るわよ、おねーさま」


「マザーが言うには」

「擬人の娘が出迎えに来てるんですって」


「げげ!」

「もしかしてまたLP?」


「それは私のセリフです」

「あなたも珍客ですからね?」


「きゃーはっはっははは!」

「おねーさま!おっかしい!」「ゲヘッゲヘッゲヘッ!」

「く、苦しい・・・」


「ケイトちゃん」

「あなた専用に作られた宇宙服はすごい事になってるわね」


「え、派手ですか?艦長殿」


「いいのよ、おねーさま」

「貧乏学生にはコレくらいじゃないと、釣り合わないのよ」


「ほらほら、宇宙港ドックが見えてきたわよ」


母星チーズの衛星「バター」その近隣宇宙域。

幾つもの宇宙ドックやその周りに、無数の艦艇が浮かぶ。

小さな光源が無数に輝く。



また旅が始まる。

50年かかってしまったが、この運命も私は受け入れる。

どんな運命でさえ、受け入れる事が出来るのは自分だから。

光と光は向き合い惹かれあう。本能の如く。


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