最強の二人が駆け落ちしました。

@oudon2972

出会いました。

時はユークレアデス2100年。ユークレアデス大陸の中心に位置するとある草原。幾年も屍が横たわっているその草原は曰く、人々から死の草原と呼ばれていた。


そんな血の草原では今日も多くの血が流れていた。死の草原を挟んで東に位置する大国、人々からは『東国』と呼ばれるアースヘルム国。そして死の草原を挟んで西に位置する大国、ザンダリウス国。この二大国では長らく対立が続いていた。理由としては何が原因かはもう分かっていない。それほど長くこの二国は争っている。犬猿の仲、というのものである。


「我がアースヘルム国に勝利を!ザンダリウスなど蹴散らすのだ!」

「野蛮なアースヘルム国になど屈するものか!第1軍突撃!」


そして、今日も何時もの小競り合いが起こっていた。1年に1回か2回。この死の草原で行われている。勝敗は勝ったり負けたり、とほぼ五分五分である。前回はアースヘルムが勝利。前々回はザンダリウスの勝利である。


しかし今回の小競り合いは少々様子が違った。前回勝利した時のアースヘルム軍の中には『東の切り札』という異名を冠する者が出撃していた。『東の切り札』の活躍は正に百戦錬磨。『東の切り札』は東国の陣営では誰も疑いようのない”最強”となっている。


対してザンダリウス。前々回の小競り合いで出撃した軍の中では『西の姫騎士』という異名を持つ者が出撃していた。『西の姫騎士』はその名の通り姫である。しかし、ザンダリウス内での実力は男女問わずの負けなし。こちらも”最強”となっている。


前回『西の姫騎士』は戦場に出てこなかったのである。そのため、『東の切り札』の独壇場となっていた。しかし、今回は違った。この二つの陣営の『東の切り札』『西の姫騎士』がどちらも出撃しているのである。


この二人が同時に出撃するのは今回が初めてであり、どちらの国にも名高いその二人の対決の行方に興味を持つ者が多かった。勿論、その二人が必ずしも戦場で鉢合わせする訳では無いが、今回の場合そのような心配はなかった。



〜〜〜



軽装の鎧を身につけた黒髪の青年が一人草原の外れを走る。鎧は緑色で草原の草に同化している。この青年、件の『東の切り札』である。


(単騎で奇襲……か、移動に時間がかかるのがめんどくさいなぁ)


青年が走るこの場所は戦場から離れている。その上鎧が緑色をしている為、安易に見つかることはないだろうと思っていたのだが。


(……気配?)


前方から急速に接近する一人の気配。すると、向こう側も気がついたのか速度を緩めた。


(向こうも相当の手練れのようだな)


剣を抜き近づいてくる気配に警戒する。


「居るのは分かっている!姿を見せろ」


声を張り上げ気配のある方へ問いかける。するとガサガサと音がしたかと思うと、草の陰から影が飛び出す。


「お前はだ……」

「貴方、なにも……」


硬直。互いは顔を合わせ、固まる。影から出てきたのは青年が見たことも無いような絶世の美少女だった。輝く金色の髪に目を奪われ、そして固まる。


そしてそれは美少女も同じだった。まだ幼さを感じさせる顔と黒髪。この青年はこの美少女の好みで言えばドストライクだった。


(め、めっちゃかわいいんですけど……)

(は、はわああああ!かっこいい!)


隣の戦場では血飛沫が飛び、首が飛んだり四肢が欠損したりしているのにこちらは一瞬でお花畑ムードである。


目を合わすこと数十秒。ようやく青年が我を取り戻す。顔をブンブン振り、なるべく相手の顔を見ないように徹する。


「お、お前は何者だ!」


美少女から顔を背け、声を裏返しながら叫ぶ。その声を受け、美少女の方も我に帰ったのかぼーっとしていた顔を正す。


「み、見たら分かりませんか!私はザンダリウス軍の者です!」

「あ、そ、そうだよな」

「え、えぇ。そうです。そういう貴方はアースヘルム軍の所属のようね」


美少女は青年の黒髪を見てそう言った。


「じゃ、じゃあ俺たちは敵ってことだな」

「え、えぇ。そのようですね」


普段、この二国の人間が戦場でこのように”お話”することなんてない。出会えば即殺しあうだけなのである。しかしこの二人の場合、互いの見た目が超絶好みだったという訳で戦うという事が頭に無かったのである。


(ここは戦場、これから俺はザンダリウスの陣へ奇襲を掛ける任務がある)

(あ、あの人は敵なんです。いくらかっこよくても戦わなければいけないんです)


互いが剣を握り直し、相手に向ける。


「じゃ、じゃあ。戦う……か」

「え、えぇ……そうね」


二人は剣を構える。


「名前を聞いておこうか」

「……名前?何故ですか?これから殺し合うというのに」

「い、いや。なんか一対一だし。それに……いやなんでもない」

「名前……ですか……まぁいいでしょう。これから貴方は死ぬんですから知られても別に構わないでしょう」


そうして戦場の外れの草原の中。剣を向け合う二人の名乗りじこしょうかいが始まった。


「じゃあ俺からな、『イルム』だ。一応軍勤めだ」

「イルム!?」


美少女はイルムのことを知っていた。『東の切り札』の異名が轟いている。前回の戦争での活躍は美少女にも届いていた。


(こ、こんなにかっこよくて強いなんて!)


「あぁ、知ってるみたいだな。『東の切り札』とか言われてるけどめちゃくちゃ恥ずかしいからやめてほしいんだよな」


美少女は心中で激しく同意した、(わかる)と。


「それでお前は?」

「え、えぇ。私は『ミリスタリア・ザンダリウス』です」

「み、ミリスタリア!?」


こちらの名前もイルムは知っていた。『西の姫騎士』として名高いザンダリウスの姫。強さはザンダリウスでは随一だと。


(確かに可愛いって噂に聞いてたけどここまでかよ……)


「じゃ、じゃあ始めるぞ」

「え、えぇ。分かりました」



「……」

「……」



((やりにくい……))

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