そして部屋を後にする
朝ご飯の時間が終わって後片付けも済ませた頃、コウジさんからおにぎりを差し出された。
「お疲れ。食っとけ」
「は、はいっ。ありがとうございますっ」
コウジさんから声をかけられたのは初めてかな。
そんな今なら……質問してもいいかもしれない。
「コウジさん、質問、三つほどあるんですが」
「……三つ? ……答えられるなら答えてやる」
「コウジぃ、この子にちょっと甘いんじゃない?」
「うるせぇ。寝坊の遅刻者はどっか行ってろ」
あの子に……悪いことしちゃったかな……。
でもそれよりも今は……。
「一つ目は、おにぎりを作る仕事、嫌いなのかなって。それと、みんなが喜んでおにぎりを食べてるんですけど、それを見てうれしいとか感じますかってこと。それと、ここに来る人達にどう思ってるのかなって……」
質問してる間、コウジさんはずっと俺の方を見てた。
何となく、俺に質問をするなっていう目で睨まれた感じがして、ちょっと怖くなった。
「やんなきゃならないこと。それだけ。握り飯は、食えるもんなら食えばいいし、食えたもんじゃないっつーんなら食わなきゃいい。俺は、食えると思える握り飯を作るだけだ。それと……」
正面から見下ろされて睨まれてる。
やっぱ、怖い。
でも……、父さんじゃないとは思えないんだよな、なぜか。
「ここに来る人達をどう思ってるか、じゃなくて、ここに来る人達に、どう思ってるかってのか? ……ふん。面白い質問するじゃないか」
俺の質問の意味、分かってくれただろうか……。
「早く回復してとっとと出てけ、としか思えんし、思わん」
「……誰に、でも?」
「特定の誰かなんか来るわきゃない。そっちの世界にはどこにも行けるわきゃねぇんだから」
そう言えば聞いたことがある。
父さんもいろんな世界の人におにぎりを作ってたという話を聞いて、その人達の世界に行ったことがあるかどうか。
なかったって言ってた。
その入り口が見えなかったから、って。
母さんと一緒になる前には行けるようになったけど、それどころじゃなかったとも言ってた。
でも俺が今、知りたいことは……。
いや、そう言えば教官が言ってた。
『感情が伴わなくても目的を達することはできる。だが自分のなすべきことに対しては集中しろ』
やる気がなくても、おにぎりを作り、それを食べてくれる人がいる。
そしてそれを最後までやり切ってた。
……そう言えば、母さんも……。
『あとは……特に、誰かのためにとか、誰かにはあげないっていうことはなかったな。誰に対しても変わらない態度だったわね』
自分がおにぎりを作る時は……そうじゃなかった。
作ってあげる相手がいる時は、その人のために作ってた。
丸っきり……この人と逆のことをしてた。
じゃあ……俺も……ひょっとしたら……。
「コウジさん……。答えていただいてありがとうございました。俺も、コウジさんみたく……頑張ってみようと思います」
「……勝手にしろ。んじゃとっとと出てけ」
「はいっ!」
ここに来た甲斐があった。
明日から、俺、父さん……コウジさんの真似、してみようかと思う。
「ちょっと! 何勝手に決め付けてんのよ! あのワニのバケモノ、どうするつもり?!」
「確かに二人きりじゃ倒せないと思う。けど、あの部屋はあの魔物が体当たりしてもびくともしなかったんだぜ? 二進も三進もいかないなら、ここにまたお邪魔させてもらおうよ」
「エッジっ! ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
隣の屋根裏部屋に移動して扉を開いた。
空耳かもしれなかったけど、コウジさんの声が聞こえたような気がした。
「エッジ、頑張れよ」
って。
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