俺は落ちこぼれって訳じゃないんだけどさ

 学校での実戦は、レベルはかなり下がるとは言っても、本職の冒険者とそんなに変わりはない活動を行う。

 魔物がいるダンジョンやフィールドに出向き、その入り口に教官が安全監視のために待機。

 俺達はグループ単位で移動して、アイテム探索や魔物討伐などの出された課題をこなす。


 今、俺らクラス全員の十チームが、ダンジョン内で討伐数を課せられた魔物撃退の実戦の最中だ。


「補助がまだ足りねぇ! 重ねがけ頼む!」

「ちょっと待って。今回復をっ……。ちょっと、エッジ! 預けた魔力回復薬は?!」

「急いでるよ! 俺に物預けすぎなんだよ! ……大体このバッグ、俺の私物で訓練で支給されたもんじゃないから、私物が優先的に出てくるんだよな。……またおにぎり出てきた」


 どんな物でも収容できるバッグは、父さんからもらった贈り物。

 全チームに一つずつ支給されるんだけど、このバッグの方が使い勝手がいいから実践でも使ってるんだけど、たくさん物を入れるとこういう欠点が出る。

 もっとも支給されたバッグでも同じことは言えるんだけどさ。


「緊急で使用するかもしれない物まで預ける方が変なのよ、マーナ。……ノクト! 代わりにかけたけど効いてる?」


 フォールスは、別に俺を擁護をしてくれてるわけじゃないんだよな。

 一般常識を語ってるだけなんだよな。

 ま、いいんだけどさ。


「十分だ、フォールス! でやぁ! アイラ! 追撃!」

「えいやっ! ヒュージ、トドメは?!」 

「こいつら、まだ体力余ってらぁ! もう一枚攻撃頼む!」

「やっと出てきた。マーナ、回復薬!」


 こういう時はバツが悪い。

 みんなが魔物を相手に戦ってるときに、俺はバッグと悪戦苦闘。

 薬なんかは軽いもんだし、フォールスの言う通り軽くてしかも緊急で使用することもあるんだから、自分で所持してりゃいいのにって思う。


「エッジ! 遅いっ! 道具管理と伝達しか出来ないんだからもっとしっかりやんなさいよ! ……はい、その一枚の攻撃、行くわよ!」

「おっし! ……やべ、撃ち漏らした。ノクト! フォロー! それとエッジ! 俺の武器交換!」

「なっ……、ちょ、ちょっと待って!」


 一つ取り出せたと思ったら即次の要望がやってくる。

 ただでさえ即座に正しく反応してくれないのに、さらに畳み込まれたら、その要望にすぐに応えられるわけがない。

 せめて収納数が数えられる程度だったら良かったけどさ。


「またかよ、エッジ……いい加減にしろよ!」

「だからみんな彼に頼み過ぎなのよ。いくらどんな重い物でも入るバッグ持ってるって言っても何でもかんでも放り込んでたら取り出しにくくなるのは道理でしょう?」

「っだらあっ! グダグダうるせぇよ、フォールス! こいつでどうだ?!」


 斧を武器に使用していたヒュージが俺に預けた物は、結構重量がある両手剣。

 手探りでバッグの中を探すんだが、重いと逆に見つけやすい。

 でもホント、このバッグの構造ってどんなんだろう?


「ヒュージ! 替えの武器!」

「切っ先こっちに向けてもいいから放り投げろ!」


 刃物投げていいのかよ。

 本人がいいってんだからいいか。

 誰でも軽々と扱える武器じゃない。

 だからこそ、武力ならクラスで一番の実力者なんだろうけど。


 五メートル先にいるヒュージに向かって武器を投げる。

 でも重いから、普通に投げても届かない。

 つい咄嗟に、高い放物線を描くように投げた。

 いや、投げてしまった。


 天井にぶつかって、五メートルほど先にいるヒュージ達に届かず途中で落ちた。


「バカっ! 何やってんのよ!」

「どこまで役に立たないのよ、こいつはっ!」


 マーナとアイラが罵倒するよりも先に、俺は条件反射で駆けだした。

 途中で武器を拾い、ヒュージの元に届けた。

 投げるよりこの方が間違いなく早かったか。


「遅ぇんだよ! エッジ!」

「つか、下がってろ、お前はっ!」


 届ける手段が手渡ししかなかったってのに、なんでこんなに怒鳴られなきゃなんない?

 そりゃ魔物との距離は近くなるさ。

 けど誰もフォローできなきゃ、自分のミスは自分で取り返すしかないじゃないか。

 で、取り返した結果がこれだよ。


 急いで後衛の位置に戻ったけど、誰からも労われなかった。

 ま、いつものことだけどさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る