俺が通う冒険者養成学校でのこと

「おい、エッジ。俺ら授業受けねぇで寝てるから代返頼むわ」

「授業受けるくらいはしなさいよ」

「俺達ゃ前衛だぜ? 肉体的疲労がハンパねぇんだよ。睡眠時間多めに欲しいんだっての!」


 そんなことを言われたら、俺は何も言えない。

 あいつらがどんな苦労をしてるかなんて分からない。

 ただ、俺よりも大変な役目を果たしてるってのは分かる。

 これは分かるし、俺よりも疲れが溜まるのも分かる。

 けど、授業サボって何をしているかまでは分からない。

 釈然とはしないけど、理には適ってる。


 けどそれを見て女子達は、講義の不真面目な態度の二人に文句を言う。

 それに、何でも言いなりの俺にも、その矛先は向けられた。

 でもあいつら二人は、実践だと魔物相手にほんとに頼りになる戦いをしてくれるんだよな。

 女子達からの補助の魔法のお陰でもあるんだけど。


「けどまぁ……学生には手に負えなさそうな魔物も倒すくらいだから……多少のことは目をつぶってもいいかもね」

「だろ?」

「お前らにも楽させてやるつもりだしな」

「適度に経験も積ませてもらってるし、まぁ有り難いかな」


 女子からの実戦での二人の評価はプラマイゼロ。

 ということは、グループ内での相互評価が最低なのは俺ってことになる。


 しょうがない。

 できることが限られてるんだから、その限られたことを精一杯頑張るしかないし。


 ※


「最近、講義の内容が物足りないのよね」

「私もそう思う。図書室で自習してよっか」

「じゃあ……エッジ。代返頼むわね」


 前衛二人ばかりじゃなく、エルフ二人も俺に代返を頼み始めた。


「いや、女の子の声なんか出せるわけがないよ」

「っつっかえないわねー。私らの返事をする声、この道具に吹き込んだから、私の名前呼ばれたら発動させといて。ここ押すだけで声が出るから」

「分かってると思うけど、私がこっち。この子はそっちだからね? 道具は色違いだから分かるでしょ?」

「……タグに名前書いて貼っとくよ……これでいい?」

「サンキュー。じゃ、頼むわね」

「礼を言うの、まだ早いわよ。ミスしたら台無しだし」

「どんなバカでも、流石に間違えないでしょ?」


 エルフ二人はこうして教室から出ていった。

 俺のグループでは、残ったのは鳥人族の女の子と二人だけ。

 六十人もいるクラス。

 元々空席もあるから四人くらいいなくなってもあまり目立たないけど……。


「……ねぇ、エッジ」

「……何だよ、フォールス」


 フォールスってのは、その鳥人族の女の子の名前。

 冒険者としての実力は、クラスで一番上。

 ちなみにクラスで二番目の実力の持ち主は、同じグループの人馬族の男子。

 ナンバー1、ナンバー2が同じチームになってるってこと自体いろいろ意見があるみたいなんだけど、最初に組み分けしたグループは、一年間ずっとその編成のままにすることになったらしい。


「あんた、今のままでいいと思ってるの?」

「……魔力が1でもあったら、二倍、三倍努力すれば増えると思うよ? でもゼロなんだよ。ゼロは何倍にしてもゼロのまま」


 フォールスはわざと俺に聞こえるようなため息をついた。

 正直言ってうざったい。

 ないものはないんだ。

 なけりゃ他のことで努力するしかないだろ。


「なっさけな……」


 耳が痛い。


 天才には凡人の気持ちは分からないだろうよ。

 って文句を言いたいけど、フォールスは天才とは違う。

 こいつもこいつで努力し続けて、クラスで一番の実力者と言われるほどまで頑張った奴なのは知ってる。

 だからこそ、耳が痛い。


「こっちだってそれなりに努力してるんだ。その結果を出せたら、俺を見る目を変えてくれるだろうよ」


 自分で言ってて虚しく感じる。

 講義の勉強は、確かに頑張った分だけ知識は身につく。

 けれど、俺の能力は何の変化ももたらさない。

 言い返したけど、そのどこにも根拠はない。

 こいつもそれを分かってるんだろうな。

 フォールスの目は、教壇の教官に集中していた。


 点呼が始まる。

 俺は四人分の代返を無難にこなした。

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