戦争の飛び火の後日談
「コウジ、あの女性は誰だ?」
コルトを自分の世界に戻らせたテンシュさんが聞いてきた。
あの女性、とは、この部屋に避難してきた一人のことを指してるわけじゃない。
流しに立つ俺の後ろの壁の上方に掲げてある証書、それに貼られている顔写真を指している。
この人は毎日、冒険者達が俺に無理やり押し付けてくるアイテムを引き取りに来てくれる。
そのアイテムを利用して、こっちで売れそうな何かの道具を作って持ってくる。
有り難いことに、店のネット販売で高めの金額で売れる物ばかり。
店の経営はかなり助かってる。
そういえばこないだはこの人達はあの女王サマとはすれ違いになったんだよな。
この証書を受け取った経緯も知らなかったんだっけ。
「どこかの国の女王様。その世界の主要国の言葉で、ここはこういう場所ですから誰かを血祭りにあげると、その人と一族郎党、とんでもない呪いがかかりますよって……」
「そんなこと書いてないです! ここでは身も心も和らげる場所であることを我々は保証しますって書いてあるんです! ねっ! アール君!」
シェイラがムキになるのも当然か。
俺の身の安全とこの部屋の機能の維持のために、サーニャが頭を巡らせて作った精一杯の配慮らしいから。
「あ、あぁ……あの表面積が広い衣装着てた女性か。……なるほど納得だ……。異世界間での争いごとがないのは幸いだったな。となると残った問題は、それぞれの世界内の揉め事をここに持ち込まないようにするだけ、か」
「ウルヴェス法王にお願いしたらどうかしら?」
「いや。あの女王様よりはやや格下だ。ましてや国王の座から降りたから、同じことをしても、同じような効果があるかどうか」
一緒に来たエルフのセレナさんと、俺にはよく分からん会話をしてる。
でもその証書の効果もあるのか、ここでの揉め事はまったくなくなった。
だがよく考えてみれば、揉め事の発端はこの女王サマの国の兵士だったんだよな。
アフターケアじゃねえか。
その配慮は当たり前ってば当たり前だよな。
ま、それはいいんだが。
「品物を持ってきていただいて有り難いんですが、時間が時間なので」
「お? おぉ、握り飯の準備の時間だもんな。油売ってる場合じゃないか」
この人達は分かってくれるなぁ。
俺の仕事の邪魔になるようなことはまったくしない。
もっともこの人達は、握り飯を求める避難者達とは立場が違うから当たり前と言えば当たり前か。
だが同じように立場は違ってもこの二人はいまだに仕事の邪魔になることもある。
「シェイラ。握り飯の作り方はともかく、炊飯の分量の量り方くらいはできるようになれよ……」
「あ、はい……。アール君、手伝って」
「はいっ! 任せてくださいっ!」
このガキもまだいる。
馬鹿正直な素直さは、良くも悪くもだな。
気が利かないと言うか、指示されないと動かないと言うか……。
この二人、いつになったら帰るんだ?
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