飛んできた火の粉の後処理
シェイラは母親のサーニャを連れてきた。
どこぞの女王ってのは聞いたが、国名までは覚えてない。
五人の兵士を見て、一瞬眉をひそめた。
しかしすぐにまた俺に親しげな表情を見せ、軽く謝罪した後二人の兵士を連れて帰っていった。
その間十秒経ったか経たないか。
女王が姿を見せた時は、誰もが彼女から距離を置いた。
当然この喧噪も一瞬で静まる。
どんだけ威厳があるんだか。
まぁ誰かが血祭りになる惨劇は回避されて何よりだ。
俺としてもこんな展開を期待していたんだが、考えてみりゃ敵兵三人を瞬時に跡形もなく……なんてこともできたんじゃねぇか?
そう考えると、俺の考えもかなり浅はかだったか。
まぁ結果良ければすべて良しだ。
と思ったら。
また戻ってきた。
今度は一人で。
大勢の冒険者に遠巻きに囲まれながら、敵兵と思われる三人の兵士の前に立つ。
どうするつもりだよお前。
その後ろで実の娘が……怯えてる。
殺気立ってるのはへたばってる三人の兵士だけ。
俺だったら、いくら相手が怪我人でも一たまりもないだろうな。
けど、俺じゃなくて女王サマだからな。
穏やかな顔つきで余裕があるように見える。
空威張りとは無縁な感じ。
「……ここは、安全区域ではない」
いきなり何を言い出すんだこの女王は。
またきな臭いことになりかねねぇぞ?
人んちを何だと思ってやがる!
「ここは、身と心に休息を与えることができる区域。それに反する者故、退室させた。それだけよ」
休息の場所という割には、緊張感に満ちた静けさって感じがするんだが?
「コウジよ、ちょっといいか?」
人払いをしてほしいにも、そんな場所はどこにもない、ということなんだろうな。
指輪の部屋に行きたがってる。
「……シェイラ、お前も付き合え」
「は……はい……」
母子での会話を望んでるようだ。
兵士三人はおそらくサーニャの顔を知っている。
ひょっとしたらシェイラもすでに顔バレかもしれん。
が、そうではない可能性もある、と踏んだんだろう。
俺から声をかければ、娘とは別人と判断してもらえるかもしれんってことなんだろうな。
だが二人っきりにしたら、それが明らかになる。
聞きたくもない会話を耳に入れるのも煩わしいが、ここは三者面談の形にするしかないだろうな。
別に感謝されたいわけじゃない。
そうしないと、ひょっとしたら逆恨みされかねない。
いくら一国の王……じゃないか。女王で公的な立場であったとしても、娘の母親としての情はあるだろう。
全く面倒なことに巻き込まれたものだ。
っていうか、よく今までこんな面倒事がなかったもんだな。
※※※※※ ※※※※※
「……きて。起きて……ばっ。コウジッ! おーきーろーっ!」
「痛ぇっ!」
いつのまにか寝てた。
脛、また蹴られた。
寝てもいいって言うんだもん。いいじゃねぇか。
「コウジよ、余計なお世話をさせてほしいのだが」
いきなり自分でそんなこと言うか。
「何だよ。面倒事はご免だぞ」
「妾の世界での主要国すべての言語で書き記した証書を贈ろうと思う。キッチンのようなところの壁にでもかけるといい」
なんか、また訳の分かんないこと言いだしたよ、この御仁は。
何の名誉もいらねぇよ。
「妾の顔写真もつけよう。それで充分役目を果たすはずだ」
「何のだよ」
「今回……ばかりではなかったな。コウジに迫った兵もいた。そのようなことをする場所ではないという宣言めいたような物よ」
サーニャの住む世界の者が見たら、ここはどのような場所で、どのように振る舞うべきかを知らしめるものがあれば、俺の手が焼けることもないだろうという配慮らしい。
サーニャの世界では随一の国力を持つとか何とか言ってたか?
そんな国の女王からのお達しなら、その世界から来た連中は騒ぎを起こすことはないだろうとのこと。
まぁ……そんな物なら有り難いとは思うかな。
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