両親を失ってからの俺に、あの二人を何となく重ねてしまう

 つくづく自分でも、貧乏くじ……とでもいうのか、自分で引きたがってるのかもなぁ、などと考える。


 コルトは自分の世界で居場所を失った。

 自分の居場所を求めた先が、その先はどこにも行き先のない袋小路のこの部屋だった。


 シェイラは自分の世界で居場所を見つけられなかった。

 おそらくは何も知らずにつれてこられた袋小路で居場所を見つけた。


 両親を失ったのはこの二人と似たような年代。

 あ、見た目な。コルトは、年齢だけはアレらしいから。


 俺は東京で生まれた。

 お袋の実家はすでになく、親父の生まれた実家の『畑中雑貨店』を経営してる祖父母に引き取られた。


 今まで親父の何度かの里帰りで、必ず一緒について行った。

 年に一度、しかも三日か四日の滞在日数。

 最初に祖父母の会話を聞いた時は、まるで外国に来ている気分だった。

 何を言ってるか全然わからなかった。

 けど、訛りを教えてもらい、少ない日数だけど少しずつ聞き慣れていった。

 里帰りから自宅に戻ってしばらくは、親父も訛りが抜けなかったせいもあったしな。


 けど、里帰りの数日の滞在とはわけが違った。

 そこでずっと生活していくわけだから、目が覚めてから布団に入るまで、ずっとこの訛りを聞かされることになった。


 家の中でならまだいい。

 聞き取れない訛りは丁寧に教えてもらえたから。

 だが転校先では、最初は珍しい転校生ということで面倒を見てもらえたが、そのうち面倒くさくなったんだろうな。

 いじめの無視ってわけじゃないだろうが、結果として無視されることが多くなった。

 そりゃそうだ。

 話しかけられたって、何を喋ってるのか分からなかったんだから。

 何を喋ってるのか分からなけりゃ、返事ができないもんな。


 クラスメイトには悪意はなかったと思う。

 けど、それでもつらかった。


 祖父母は俺の事情を理解してくれた。


「高校は東京の寮付きのところに行ってもいいんだよ」


 俺はその言葉に甘えた。

 ここに居場所を作る努力をしなかった。

 居場所を自分から探し求めることも思いつかなかった。


 祖父母から不意に言われた言葉に、俺は安心を得ることができた。

 感謝してもしきれない。


 この世から、自分のそばから急に両親がいなくなって心細くなったときに。

 自分の周りで、自分に理解できない言葉が飛び交って、心細くなった時に。

 祖父母は温かい手を差し伸べてくれた。


 いくら住む世界が違うとはいえ、思いっきり突き放したらそれっきりという細く頼りない縁とはいえ、この二人に差し伸べられる手を俺は持っていた。


「みんなに分け隔てなくおにぎりをあげてるんだよ」


 ニコニコしながらそんなことを祖母ちゃんは言っていた。

 だから、誰かを特別扱いせず、差別なく、この部屋に来る者全員同じ態度で接してきた。

 伸ばせる手があるからといって、そいつらだけに特別扱いするわけにはいかない。


 けど、この二人は、意志を持って縋ってきた。

 あの時の俺には、それはなかった。


 その意志の力を正しい方向に向けられれば、きっと俺みたいに、居場所を見つけられる。

 何の意志もなかった俺ができたことだから。


 それにこの二人は、周りから受け入れられてもらっただろう?

 コルトは歌声を。

 シェイラは手の光を。


 あとはお前ら次第だ。

 受け入れることを嫌がった俺の意思の通りに、居場所を他に求めるならそれでよし。

 けれどもそれでも執拗に頼み込まれるなら……。


 お前らの味方は、きっとあの時の俺以上にたくさんいる。

 だから……


 とっとと早く居場所を見つけて、こっから出て行ってくれよ?

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