シェイラの決意を受け入れる義務はないけどさ

 自分で何かをしようってときは、確かに周りの後押しとか推薦や推奨は、それを決断するための決め手となる重要な要素。

 けど、結局は自分の決断次第。

 自分の意志で自分の行動を決めるべき。

 だが……。


「私……ここに残って、コウジさんのお仕事手伝いますっ」

「やだ」


 即答。


 冗談じゃない。

 あの女王サマが俺に託す、託さないの自由はある。

 王女サマも、ここに残る、帰るの選択の自由はある。


 俺にも同じように、それらを受け入れる、拒絶するの二択を選ぶ権利があって当然だ。


 ここにいたいから残る?

 それこそただの我がままだっつーの。


「……私……、あんなふうに言われたの、初めてだもん」


 あ?

 また過去話聞かされるのか?


「いつも……褒められる前に『王女様』とか『お嬢様』がつくの。『流石王女様』とか、『やっぱりお嬢様ですねー』って」


 いらねーよ、そんなお前の豆知識なんざよ!


「いつもきちんとした服装してるだけでそんなこと言われるのよ? 私が何かしたわけでもないのにっ」


 いつになったら終わるんですか、その過去物語は。

 早く終わってくれませんかねみんなの夜の握り飯作りの方が価値あるんですけど。


「昨日のお母様のお話しを聞いてる人もいるみたいだけど……今は知らない人の方が多いわよね。だから私のことを知らないってことでもあるんだろうけど……」


 こいつにまたアレをやってもらうなら、具入りの握り飯じゃなくてもいいかなぁ?

 時間は短縮できるよな。


「さっきは……私じゃなく、私のしたことを褒めてもらった。……褒められるようなことができた……って思えた。私にも出来ることがあるってことを知ることができてうれしかった」

「時間的に考えると、そうした方が作る個数が増えるんだよな」


「……聞いてるの?」


 ……やべ。

 つい、声が出た。

 ここはやはり正直に……。


「ごめんね。聞いてなかった」


 あ、なんか怖い。

 魔力云々は知らんけど、なんか、ゴゴゴ……みたいな効果音が似合う表情してるわ。


「人が真面目に話をしてる時に……」

「人が真面目にあいつらの晩飯のことを考えてるときにだな……」


 ……うん、無言で睨まれるのは怖い。


 見た目の年齢で二十年以上下回ってる女の子だが、妙に怖いよその顔は。


「一旦帰れ。……本気で俺の手伝いをする気があるなら……服装変えてから来い。ヒラヒラが多いと、どこかに引っ掛けやすい、人の視界を遮る、無駄な動作が多くなる、その他諸々、損する部分が多くなる」


 見た目が華やかだから目の保養になるかもしれんが、着てる人物は未成年だしな。


「着替えてくればいいのね?!」

「あぁ。それくらいの帰還なら許してくれるだろ? 俺から指示されたって言えばさ」


 おぅおぅ。

 部屋を飛び出していったぞ?

 しかもうれしそうな顔。


 これまでの我がままは、自己主張の表れか。

 その主張は大人相手に通用することもあったかもしれないが、みなその肩書や立場で判断され、本人自身の評価を見てもらったことがない、か。


 さて、こちらも夜の握り飯タイムの……


「コウジさん。お客さんが来てる……」


 飛び出したと思ったら、また顔を出したシェイラは……。


「あ……っと、テンシュさん」

「お、おぅ……取り急ぎ……品を納めようかってな……。この部屋でも……いいか?」


 テンシュさんの顔が強張っている。

 昨日といい、今日といい。

 シェイラに慄いているのか。

 まぁ……人の心境はどうでもいいか。


 で……風呂敷包みで持ってきたよこの人。

 風呂敷、万能だね。


 解いてみると、皮鎧めいたものが二、三点。それに……。


「「あっ」」


 ……シェイラと同じタイミングで声を出すとは思わなかった。

 子供用っぽいジャージのようなのがある。


「これにすっか?」

「はいっ」


 まさか希望に沿った服を作って持ってきてくれると思わなかった。

 だがジャージ一着だけじゃ何ともならんか?


「こいつにサイズが合いそうな下着とか作業着めいたの一式をリクエストしたいんですが……なるべく早めに……。いいですか?」

「え? あ、あぁ……、わ、分かりました……」


 そのまますぐに部屋から出て行った。

 ビビってんのかな、テンシュさん……まぁ、いいけどさ。


「とりあえず上着はそれに着替えて、早速いろいろやってもらうからな?」

「はいっ!」


 さて……。

 んじゃこっちの最初の仕事は……。


 この部屋に、ノートと鉛筆か何かと消しゴムを持ってくることだな。

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