別れの朝に確信した握り飯の異変

 翌朝の握り飯タイムの時間を迎えた。


 異変が起きた。

 俺は一瞬、理解できなかった。


 経緯はこうだ。


 昨夜寝る前に洗米した量は、この朝の握り飯の分。

 いくらか米が余ると思われる量。


 流しの前に置いておくストックがなくなった。

 異変とは、シェイラが必要な分の米袋を俺が開けた指輪の部屋から素直に持ってきてくれたことではない。

 まず一つが、今朝の握り飯を食った連中の様子だ。


 この部屋で睡眠をとっていた連中は、みな完全に体調も戻して、感謝しながら部屋を出て行った。

 感動のハグがウザかった。

 なるべく触れたくなさそうだったが、シェイラが引き離してくれたのは有り難かったが、それは異変のうちには入らない。


 出て行った人数分、新たに部屋にやってくる冒険者もいる。

 そいつらが握り飯を食うと、中には感涙する者も現れる始末。

 今までだって喜んでくれた奴はいるが、安心のあまり気を失った人数の方が多い。


 シェイラは違和感すら感じなかったようだ。

 そんなもんでしょ? さっさと帰りたいの。

 そんな感じ。


 だが俺にとってはかなり異常。

 ただの軽い食事のはずが、特効薬か何かか? と思わせるほどの効果があったんだから。


 例外はない。

 食った奴全員がそうだった。


 昨夜の握り飯タイムのことも併せて考えると、やはり何かがある。

 俺はいつもと同じ準備と作業をした。

 そしてこの異常は、昨夜の一部の冒険者に現われたのが始まりだった。


「シェイラ、何か俺に……」

「何よ」


 いや……。

 こいつは報復するような粘着タイプの性格をしてるか?

 間違いなく、そんな性格じゃない。

 もしそうなら、母親が立ち去った後、ずっと母親への愚痴や悪口なんかを言うだろう。

 それどころか、「大国の女王様」と言い放った。

 ある程度親子の繋がりを離れた意識で、しかも尊敬の念がなきゃ言えないことだ。


 俺の目に届かない所で、俺の足を引っ張るようなことはしないだろう。

 俺が母親へ敵意を持ってない限りは。

 文句は言いたい。

 けどそんな思いを持つようなことじゃない。


 この異変は、偶然ではない。

 日数の少なさを見れば偶然かもしれないが、人数が半端ない。

 今朝は一人二個食べた奴はいない。

 つまり百五十人だ。

 加えて昨夜の一部。


 だが、シェイラが来てから起きた異変だ。

 彼女が何かをした。

 しかし彼女には、米に何かをしたという意識はない。

 けれどそんなことが起きる現象を起こしたことは間違いないだろう。


 まぁ俺にやらかした事はあっ……。


「あ……」


 まさか。

 いやしかし。


 共通点はある。


「……何よ、固まっちゃって。それより私、お腹が空いたんだけど? ご飯も食べさせないほど気に食わないわけ?」

「あ、あぁ、すまん。用意、する……」


 ひょっとして、こいつもコルトとおんなじか?

 だが試してみる価値はある。

 一々反抗する態度は気に食わないし、気付いてないことを教える義理もないのだが。

 ひょっとしたら子の性格すら一転する可能性があるのなら。


「頼みごとがある……いや、あります。どうか、お聞き届けを」


 それができるなら、物の言い方や物腰、態度を変えるくらいどうということもない。

 腰から曲げるお辞儀にシェイラは驚いて戸惑っているようだ。

 が。


「はぁ? ……ったく。どうせ今日で終わりなんでしょ? そこまで言うなら聞いてあげるわよ」


 シェイラは気味悪そうな顔を俺に向けた。

 了承してくれたのは有り難かったがな。


 けど、俺の推測は、俺と一緒に朝の握り飯を食った反応で確信を持った。


「こんなつまんない味の食事なんて、生まれて初めて」


 間違いない。

 こいつは……。


 女王に真っ先に報告すべきは、娘の態度じゃなく……。


 俺は、シェイラに頼みごとをする時間が、ほんの僅かだったが待ち遠しくて仕方がなかった。

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