無理解と衝突 封じてるみたいだけど、それでも怖い魔法発動

「おい、俺とお前の晩飯は、握り飯をみんなに配ってからだっ!」


 シェイラの奴、どさくさに紛れて行列に並ぼうとしてやがる。


「えー? お腹空いたんだけどー? まだ待たなきゃいけないのー?」


 全くこいつは……。

 片手で十キロの袋を持ち上げるのに全く躊躇わなかったのに、なんで空腹を我慢できねぇんだ?


「あと四つのトレイの握り飯、全部配ったら晩飯作ってやってもいい」

「ぶー」


 王女様がぶーなんて言うなよ……。

 つか、国を背負ったら国民のために我慢しなきゃならんことがあるんじゃないのか?

 大丈夫かよこの国……。


 早く食いたいから手伝う。

 間違いなくそんな思惑で動いたな。

 なら手伝わせてやる。ただし……。


「んじゃお前、ここでな。俺はトレイ運んで列の途中から配るから」

「え……」


 トレイ持って動くより、一か所にとどまって衆人環視の中で手伝わせた方が悪さもしないだろうよ。

 で、おそらくそれを企んでたんだろうな。歯噛みしてやがる。


「お前が配るより俺が配った方が早く終わるだろうしな。早く食べたいんだろ?」


 ま、俺はシェイラと違って思いやりの心があるからな。

 お嬢様のお姫様なら、甘口でも食わせてやるか。

 コルトが好きな激辛は流石に無理だろうからな。


 ※※※※※ ※※※※※


 で、トレイ二つ目から配り、最後のトレイの分を配ってるわけだが……。


「コウジさん……」

「ん?」


 握り飯を受け取って食ってる冒険者から声をかけられた。


「あのさ……言いづらいんだけど」

「あー、はっきり言ってくれ。俺も個人的には早く配り終わりたいからさ」

「いや……、うん、はっきり言おう。最初におにぎり受け取った連中、大喜びしてただろ?」

「あぁ。してたな。で?」

「……俺には今朝のとあまり変わらない感じがするんだ」

「え?」


 まぁそりゃそうだろ。

 特に何の工夫もしてないんだ。


「あ、誤解すんなよ? おにぎり自体まずいわけじゃないぞ?」

「分かってるよ、それくらい」


「そうか? 握り飯食って感動した奴の九割がたはもう部屋から出て行ったぜ? 体調万全だっつってな。俺は様子見だけどさ。無理すればあのダンジョンに戻れなくはない」


 近寄って話しかけてきたのは、最初のトレイの分をショーケースの前で受け取った奴らしい。


「そこは無理すんな。けど、どれも同じように米は炊いたし……。何かあったんかな?」

「ま、まぁ何か偶然の産物みたいなもんじゃねえか? 羨ましいが、握り飯作った時に何か工夫でもしたのかなってな」


 残念ながら心当たりはない。

 もしあったなら、今後好評を得たやり方を採用するつもりだが……。


「あー……コウジさん? ちょっといいかな……」


 別の奴から話しかけられた。

 次から次へと用件がよく出てくるもんだ。

 今度は何だ。


「あー……あのお嬢ちゃん、何者? 引き換えのアイテム置いたら『何? このゴミ』って言われて……」


 俺もそんなことを言ったこともあったが……。

 立場が違うよな……。

 それに今では、テンシュさんのバックアップがあるからどんな物が置かれていっても有り難い。


「事情を説明して、一応理解できたみたいなんだが、それでも鼻で笑うようなことをされてな……」

「あー……うん。どっかの国の王女様なんだと。その母親から託された立場だから、一応言っとくわ」

「そ……そうなのか……。コウジさんも……出世したな」


 何のだよ。

 俺へのどうこうってのは俺が我慢すりゃそれでいいかもしれんが、こいつらにどうこうするのは筋が通らない。

 文句があるくらいならやらなきゃいいんだ。

 部屋に引っ込んでもらった方がまだましだ。


 だがいきなり注意すると、プライドが高そうな王女サマはどう反応するやら……。


 ※※※※※ ※※※※※


 で、元コルトの部屋。現シェイラの部屋での晩飯の時間。


 食う前にきつく注意をした。

 分かってたけどさ。

 シェイラの反応、先が読めてたけどさ。


 いきなり立ち上がって、座ってる俺を睨みながら見下ろしてさ。

 何なんだよあの迫力。


 本能で部屋から逃げ出したよ。

 流しの前で米袋に蹴躓いた。


 また何かの魔法ぶっ放す気だったんだな。

 家の中に逃げ込もうかと思ったが、シェイラには見えなかったとしても、その戸が壊されでもしたらどうなるか分からない。


 米袋が壁の役目になるか分からんが、他に身を守る物もないし。

 頭隠して尻隠さずじゃないけども。


「私に向かっていい度胸してるじゃない!」

「おまっ! お前が悪いに決まってんだろっ!」


 また両手から魔法を出そうとしたんだな。

 閉じた瞼を透過するほど眩しい光がさく裂した。

 けど、目は無事。

 体も無事。


「……お前のかーちゃん言ってなかったか? 俺を困らすなってよ」

「……私に楯突くようなこと言うからでしょ?!」

「お前はいつまでもここにいるわけじゃねぇだろ! 俺はずっとここにいるんだぜ?! その俺の体に障害が残りそうなことすんじゃねぇよ!」


 休んでる連中みんながこっちに注目してる。

 助けようと思っても助けようがないんだろうな。

 こいつのかーちゃんが来た時みたいに、その力量が分かったんだろうな。

 俺には分からんからこうして反論できるんだろうが、もし俺にもそれが分かったんなら、怯えるだけしかできなかったろうな。

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