一人のJK

 私は曲がりなりにも一人の女子高生だ。学校に行けば少なからず話す友達はいるし、得意科目もあれば苦手科目もある。そんな普通のJKというものだ。

「なあ、二人とも、三組の長澤が二組の真央に告ったって話聞いたか?」

 例の如く、いつもの三人で弁当を食べてると、小声で濱崎が話し始めた。

「え? それって本当なの?」

「ああ、それが本当らしいぜ」

 二人が話しているのを眺めていた。

「聞いてるか?」

「え? あっ、うん」

「本当か?」

「え、ええ、長澤が真央さんに告った話でしょ」

「その続きの話だよ。今日帰りに一緒に帰るのかって」

 あまりのアホさに思わず鼻で笑う。

「なんだよ、柄にもなく笑ってよ」

「……他人の恋路を覗くより自分の心配した方がいいんじゃない」

「な、なんだと! 誰がインポじゃ!」

 机に手を叩きつけ、身を乗り出す様に立ち上がる。

「そこまでは言ってないわよ。でも17にもなって一度も彼女出来た事ないんじゃね」

「はっ、お前だって彼氏の一人や二人作った方がいいんじゃねえか?」

「な、なに! 誰がビッチよ!」

 思わず挑発に乗ってしまい声を荒げて立ち上がる。濱崎はそれなりに身長は大きい方で、逆に自分は小柄な為、見上げる形になるが、互いに引かず睨み合う。

「そこまでは言ってねえよ」

「ほら、二人とも、やめましょう?」

 カメコが引きつった笑いで私と濱崎の仲裁に入る。濱崎がふてぶてしく席に着くのに合わせ自分も座る。

「へっ、それでカメコはどう思う?」

「でもまだ噂だから、どうかしらね」

 二人の会話を尻目にタコさんウィンナーを口に運ぶ。

 風と戯れるカーテンの隙間から空が覗き、入道雲が見えた。


「夏休み……」


 その言葉が口をついて出た。二人は少し驚いた様な顔をして、同じく窓の外を見た。

「そういえばそろそろか、楽しみだな」

「今年も海行きたいわね」

 二人が盛り上がる。そんな自分はやることがあった。とある旧友に会うために。


「んじゃ、また明日な」

「バイバイ」

 二人と別れ、家の車庫へ直行する。そして作業台に置いてある写真を手に取った。愛車のプレスカブと自分。そして角目のカブカスタムに跨る旧友『峰田みねだ 秋穂あきほ』がニカッと笑い写っていた。

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