主人公の刑事、真田はアパートの一室で発見された変死体に関わる事件を捜査することになります。
しかし、その手には植物の実が握られていて、それを調査するとともに並行して周囲の人間から死んだ男に関する数々の証言が語られていきます。
しかしその証言はそれぞれの立場から断片的に事件の外側をなぞるだけのもので、さながら芥川龍之介の「藪の中」のように主人公を混迷させます。
その中で唯一事件の核心を知ると思われる、死んだ男と関係していた蠱惑的な情婦と接触することに成功するのですが……。
真相が暴かれるにつれて、オカルティックで荒唐無稽とも思われる刺激的な展開が描写されますが、科学的な知識に基づく理由付けがされていて物語に説得力を与えます。
まるでサスペンス映画のような緊張感にあふれた描写は一気に最後まで読ませる力があります。
ミステリ(推理小説)とミステリー(怪奇小説)の枠を超えた完成度の高い一作ですので、ぜひご一読を。