獣の過去帳
みずかん
『カルガモ』の過去
私はこの姿になってから、やり続けている事がある。
それは、他人を案内する事。
何故私が案内する事が好きなのか。
それは、フレンズになる前の思い出が関係している。
レアなケースかもしれないが、フレンズになる前の記憶が私にはあった。
その時見たのは、フレンズの私...。
おそらく、私のお母さん。
お母さんが、まだ子供だった私を導く後ろ姿だった。
その後ろ姿は勇ましく、周りをよく注意し、先導する。
かっこいいその姿に私は憧れを抱いた。
年月が経ち、フレンズになった。
私は母親にはなれてはいないが、
どうしても、あの時の母親の様に誰かを先導したかった。
そこで、他のフレンズを先導...、つまり、案内する事にした。
サバンナでその案内するフレンズを探した。
遠くにフレンズの影が見えた。
私は心で『よし』と覚悟を決め、そのフレンズの元へと飛び立った。
勢いよく笛を鳴らし、彼女を呼び止めた。
彼女の名はシマウマと言った。
待ちに待った初案内。
私の心中はドキドキとワクワク。
そして、やっと自分の憧れその物になれたという
達成感に包まれていた。
だから私は...、油断してしまった。
水場に行きたいと彼女が言ったので、私は案内した。
途中までは順調だった。
私も初ガイドは、輝かしいデビューで飾れると思っていた。
だが、水場まで後少しというところで、事件は起こった。
「きゃあっ!!」
突如発せられた声に私は驚いた。
後ろを振り返ると、蛇の様な形をしたセルリアンが、
シマウマに巻き付いていた。
その光景を見た瞬間、私のワクワクや達成感は一気に
恐怖心へと変わった。
自分も標的にされるかもしれない。
案内役である私は、その場から"逃げ出した"のだ。
案内人としての責任を破棄した。
私は、"他人を見捨てた"のだ。
その晩、巣に帰り呼吸を乱しながら、泣きじゃくった。
自分自身に失望し、とてつもなく後悔した。
彼女の発した、『助けて』という声がずっと頭に響き続ける。
何日間悔やみ続けたか。
私は、自分で尊敬していた人物にも泥を塗った事になる。
パーフェクトガイドに私はなれない。
もうガイドはやめよう。
だが、私はガイドをせずにはいられなかった。
日に日にに、一度の失敗で、諦めて良いのだろうかと、考えるようになった。
次に失敗しなければいい。
覚悟を決め、2度目のガイドに挑戦することにした。
今度は、2人組だった。
しかし、また失敗した。
片方が転んで怪我をした。私はもう片方に罵倒された。
どうして、安全に気を使わなかったんだって。
私はその叱りを受けて、3度目に挑戦した。
またまた、失敗した。
1人だったが、途中ではぐれてしまい見失った。
その後もめげずに、何度も何度も何度も、ガイドした。
その度に、失敗した。
3人組で1人欠けたり、またセルリアンに食べられたり、勝手に行動し始めたり。
だけど、私は諦めなかった。
多分そうさせたのは、私の憧れの存在があったからかもしれない。
私の母親。
彼女の言葉で、ずっと残っている台詞がある。
『失敗は成功の元です』
なぜ彼女は、フレンズでない私にそんなことを言ったのか、
今では知る由もないが、その言葉に励まされた。
失敗はいつか、成功につながる。
それを信じて、ガイドを続けた。
これが何度目のチャレンジだろう。
遠くの方に3人の人影が見える。
私は心中で覚悟を決めた。
"今度は絶対に、1人も欠けさせない"
今度は、完璧なガイドをしてみせるんだ。
勢いよく笛を鳴らした。
「ストーップ!!!」
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