帰還
「この
「ご冗談っ!」三音子は恐ろしさと
そして、これ見よがしに大
「どうしても、その気味悪いのを私の
「今さら何を言われる……どうか、我が夫婦を哀れと思って、頼む」
「嫌だね」
「頼む」
「くどい。嫌だって言ってるだろ」
「どうか」
これ以上の押し問答は無用と、三音子が運転手に目配せをした。
鏡壱が
三音子自身も後部ドアから
「おおっ、
紳士、カシミヤのボタンを外して前を広げながら雪の上に
暗い冬の夜、前照灯の光の中に浮かぶ彼らの姿は、
二目と見られぬ化物紳士……しかしマフラーで顔半分を隠せば、眉目秀麗、筋骨隆々の美丈夫……そんな男が雪の上に
三音子は、構えた銃口の先で化物を抱く化物を見つめ、小さく「チクショウ」と
「まったく今夜の私は、どうかしてるよ! ええいっ、毒を飲んだら皿までだ。サッサとこっちへ来て
化物紳士、その三音子の声にハッとして顔を上げ、立ち上がりながら「済まない……恩に着る……恩に着ます」と言って、出来るだけ速く、しかし、そっと胸に抱いた大
間近で見る赤黒い
生理反応的に全身から力が抜けて、膝から砕けて落ちそうになって思わずセダンの
大虫を抱いた男が向こう側の後部座席の扉を開けようとするのを見て、ハッと気づいた三音子が「駄目だっ、後部座席は駄目だ。助手席へ乗ってくれ!」と叫んだ。
化物を抱いた化物男、言われた通り素直に助手席の扉を開けて車内に収まった。
三音子も扉を開け、助手席の化物たちとは対角の位置、すなわち運転手の真後ろの席に座った。彼らと出来るだけ距離を取り、しかも後ろから銃を突きつけるためには、この席順以外に選択は無い。
運転席に座る鏡壱の顔は分からなかったけれど、微妙に助手席から距離を取り、窓側へ
「鏡壱、出して。屋敷に戻ろう」と三音子が言って、運転手がギヤを
いったんカーブを通り過ぎ、少し道幅の膨らんだところまで行って、そこで何度かハンドルを切り返し、岬の屋敷に帰る方向へ鼻先を向け、またソロリソロリと
走る車内、後部座席の三音子は、斜め前に座る男に用心深く銃口を向け、様子を
化物紳士は、座った
背もたれと、彼自身の体と、カシミヤに隠れて、後ろからは
大っ嫌いな虫の
車内が少しも暖かくない。
「ちょっと、鏡壱、寒いじゃないか……もっと暖房を強くして」
トトン、トン、トン……
運転手が、ダッシュボードの板をリズム良く指で叩いた。
『暖房、一番、強イ。コレ以上ハ、無理』
つまり、すでにダイアルは最強にしてあるという事か。
ならば、なぜ効かないのか? なぜこんなに寒いのか?
「ほう……モールス信号か?」
助手席の紳士が言った。
「よく分かったね。そうさ、その通り。運転手の鏡壱は
「なるほど、それは素晴らしい」
しばらくの沈黙のあと、化物紳士が「車内が寒いのは、運転手のせいでも、
「なんだって? どういう事さ?」と三音子。
「
「その気味の悪い奥方とやらが、凍えて死にそうだってのは最初に聞いたよ……でも……」
「いや、冷えているというのは、物の例えじゃない……製氷機や冷房装置のように、文字どおり、
生き物の体温が冷えていると言った場合、普通それは『通常体温に比べて低い』という意味だ。体温がどんなに下がったとしても、周囲の気温以下になる事は無い。体が冷え過ぎて周囲の温度を下げてしまうなど
しかし現に、暖房を
(姿形だけじゃない。こいつらには不思議な
岬の先端へ向かう雪道を走ること十五分。
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