岬の赤レンガ屋敷(2)
銀縁
* * *
この女中は、
以来五年間、この〈岬の赤レンガ屋敷〉に住み込んで、左腕の
体は小柄で華奢。繊細な
高等教育は受けていないが読み書き
読書という共通の趣味もあって、三音子は、この年の離れた女中を『
三音子には拳銃射撃という女にしては少しばかり変わった趣味があるのだが、試しに
ある日、
彼女が来ている洋風
彼女には、幼い頃に両親を犯罪者に惨殺され、学校を卒業するまで親戚じゅうをたらい回しにされた悲しい過去が有るらしかったが、それについて多くを語ろうとはしなかった。三音子も
* * *
持って来た木の椅子を居間の中ほどに置くと、
三音子はその椅子に座って待った。
座面の硬い、どこにでもある安物の木製椅子だった。この硬い座面が
次に戻って来たとき、
椅子に座った三音子の左横に台を置いて、女中は「よろしいですか?」と
「ああ。やっとくれ」と三音子。
乳房と一緒に露出した左腕を肩の高さの台に
自分では動かせない左肩から先の各関節を、誰かに頼んで、曲げ、伸ばし、曲げ、伸ばし、と繰り返しやってもらうのが、三音子の日課だった。
十八歳で暴漢に肩を刺されて以後、もう十一年間も、ほぼ毎日一時間弱、この
(こうして他人に動かしてもらえば、回復は見込めなくても衰えを最小に食い止められるって
台の上で富喜子に関節を曲げ伸ばしして
(後ろ向きの努力ってのは、やるせないもんだ)
ふと部屋の隅に目をやり、ラヂオの横に置かれた別の受信装置に目をやった。
〈特殊電波通信器〉だ。
電話線の引かれていないこの岬の先端で、外界と通信する唯一の手段だった。
ただし通信先は限られる。
第一に、警察。
第二に、
錠太郎が所有する黒の
「まったく、正月だってのに」
沈黙したままの〈特殊電波通信器〉を恨めしく
「市中を
「はぁ」と
「正月くらい、捕り物なんか警察に任せて、こっちでユックリ休みゃあ良いのに」
「きっと先生なりに、ご自分の使命を感じているんだと思います。この頃はハチドリ市にも凶悪犯罪が増えていると聞きますから」
「何が
そこで三音子は、左横に立って彼女の左腕を曲げ伸ばしする若い女中を見上げた。
レビュウの女王と言われた十代の頃の自分に比べれば、この若い女中の顔は少しばかり地味に見える。
とはいえ、まずは美少女と呼んで差し
「やけに
「どう、とは、どういう意味でしょう?」
「
「立派な方だと思っています。素晴らしい推理力で警察の犯罪捜査にご協力なさっている立派な方です」
「そんな話じゃないだろ、女の目で見て、一人の男としてどう思うかって事だよ」
「そう
「私自身も十年前、いや十五年前は立派な小娘だったから言わせてもらうけどね……その乳くさい小娘に入れ上げる男が、この世にゃ
「あの、私……正直に白状しますと……」
「白状すると……?」
「いくら立派な紳士でも……あんまり
それを聞いて、安心したように三音子は椅子の背に体を預けた。
「それも、そうだね……
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