第3話 ミーちゃん、猫缶を食べる。①
鐘の音で目が覚める。うーん、いつの間にか眠ってしまったようだ。ミーちゃんは俺の横でまだ寝ている。鐘が五回鳴った気がするので夕方五時ってことかな。
この世界の時間関係は地球と同じで一日は二十四時間、週という概念はないけど、ひと月はだいたい三十日くらい。なぜくらい…かといえば、国によって違うかららしい。天文学みたいなのがあるようだけど、国が管理していて年始に一度国民に知らされることになっているようだね。
時間を知らせるのは鐘で十二時間をワンセットにして二回、一時なら一回鐘が鳴り、二時なら二回鐘が鳴る。十二回鳴った次の鐘は一回に戻るといった感じ。会話の中で一の鐘分って言ったら一時間のことになるそうだ。
夕食時間が五の鐘からとも言っていたな。ちょっと早いけど食べてからお風呂に行こう。寝ているミーちゃんを優しくゆすって起こすと、寝惚け眼を向けてきた。
「ミーちゃん。ご飯に行こうか」
「み~?」
あれ? お腹空いてないのかな? じゃあ俺だけ食べてこよう。ミーちゃんの分は後で女将さんに言って分けて貰えば良いだろう。
と思ったけどなぜかミーちゃんが甘噛みしてくる。どうしたんだろう?
「どうしたの?」
「み~み~」
バッグを小さな可愛い前脚でテシテシ叩いている。か、可愛い……じゃなかった。バッグを開けてあげると、頭を突っ込みゴソゴソ何かをしている。遊んでいるのだろうか? そう思っていると、ハウツーブックを咥えて引っ張り出してきた。
ミーちゃんは器用にガイドブックを広げて、最後のページをテシテシしている。読めってことかな? そのページは神様が走り書きした場所だ。まだ、ちゃんと読んでいない部分だね。
読んでみるとミーちゃんについてのことが書かれていて、とても可愛いがっていたことがわかる。最後にP.S.とありミーちゃんのご飯について書かれている。ミーちゃんは高級猫缶しか食べない。神猫だけあって何を食べても問題ないようだけど、高級猫缶が大好き。って言われましても……。
『大変申し訳ありませんがあなたの能力を変更し、高級猫缶をいつでも出せる能力を付けさせていただきました。ミーちゃんをよろしくね。てへぺろ♪』って書いてあった……。
本気すっか、能力の変更だなんて……聞いてないよ。神様~。
鑑定スキルは使っている。では他のスキルどうなんだろう。どうやって調べれば良いのだ? しばらく悩んだ結果、自分を鑑定してみる。鑑定すると透明な板に内容が書かれている。そしてその内容は、非常に弱いと出ている他にスキルが並んでいて、鑑定、マップ、運気上昇……猫用品!?
猫用品ですかぁ、戦闘スキル関係の身体強化と弓技がない……こんな危険な世界で神様は俺にどうしろと仰るのですか! 俺って非常に弱いみたいだし……。
神様の書いた文章の最後に、変更したスキルは頑張れば取れますよ♪ って書いてある。すぐに必要なスキルなのですけど。どう頑張れと?
「みぃ……」
「いいんだよ。ミーちゃんが悪いわけじゃない。俺が頑張ればいいだけなんだ。よね……」
「み~」
「うぅっ……」
ミーちゃんが泣きそうな俺の体を登ってきて、顔をペロペロしてくれる。うぁぁん、泣くもんか、泣いてなんかやらないぞ! 俺はやればできる子……のはずだ。頑張って生き残ってやるぞ! 俺の為にも、そしてミーちゃんの為にもな!
取り敢えず、ご飯にしようか。今悩んでもどうしようもない。まずはお腹を満たしてからゆっくり考えよう。
宿の食堂兼飲み屋に降りて行くと、女将さんに声を掛けられた。
「食事にするかい?」
「はい。お願いします」
「その子の分はどうするんだい?」
「皿とお水を頂けますか」
「あいよ」
さてミーちゃんのご飯だけど、どうやって高級猫缶を出すのだろうか? 急いでいたからなのか、神様の文章に使い方の説明がなかった。
高級猫缶……出ない。猫缶……出ない。ミーちゃんのご飯……出ない。猫用品……出た!?
目の前に透明な板が出てきて猫用品が書いてあり、猫缶、ミネラルウォーター(軟水)の二つがある。猫缶にタッチしてみると目の前に猫缶が出てきた。そして、なんか力が抜けていく。あれ? ちょっとだるい。どうやら、タダではないらしい、一度に何個も出すと大変なことになりそうだよ。注意が必要かも。
暫くすると女将さんが料理と小さめのお皿二つと、水の入った木製のコップを持ってきてくれた。
「お待ちどうさん!」
「そういえば、名前を言うのを忘れてました。俺はネロ、この子はミーちゃんです」
「み~」
「あははは、そうだったね。あたしはアンナ。好きに呼んどくれ」
そう言って戻って行った。女将さんに名乗った名前はさっき鑑定で自分自身を見た時、名前がネロになっていたからだ。呼ばれ慣れているから問題ないので、ネロで良いかなって思っている。この世界では根路連太ではおかしいかもしれないからね。
女将さんの持って来た料理は何かの炒め物、何かのシチュー、黒パンと鑑定できた。なんて曖昧な表現……これで鑑定できたと言えるのだろうか?
ミーちゃん用にお皿が二つあるので、一つのお皿に猫缶を出してあげる。もう一つのお皿にコップの水を注ごうとすると、ミーちゃんが首を振って嫌々としてくる。
「お水はいらないの?」
「みぃ……」
ん? 水、ミネラルウォーター……そういうこと? ミーちゃん用のミネラルウォーターだから軟水なんだ。任せなさい! 猫用品スキルを使い、ミネラルウォーターを召喚する。め、目眩が……。
「み~」
どうやら、正解のようです。ミネラルウォーターをお皿に注ぐと、今度は嫌々しなかった。
「頂きます」
「み~」
ミーちゃんも頂きますを言ってくれる。凄く嬉しい。
召喚した猫缶は高級猫缶ではないみたいだけど、満足そうにハムハムしているので良いのかな? でもこれでミーちゃんの食べ物の心配はなくなったね。
次の問題は俺の方だ。この世界の味は俺に合うのだろうか?
見た目は美味しそうに見える。食べてみると、炒め物はピリッとした味付けで食欲が増進し、シチューはゴロッとした肉がとても柔らかく煮込まれていてスプーンで切れるほどだ。おかわりしてしまうくらいとても美味しい料理でしたが、全体的に味が薄い。でも十分に満足できる味だった。料理人の腕が良いのかもしれないね。
ミーちゃんも食べ終わり、満足の模様。前脚をペロペロ舐めて顔を洗っている。その小さな体のどこに猫缶が全部入ったのだろうか? 不思議です。
「ごちそうさまでした」
「もう、いいのかい? ちゃんと食べないと強くなれないよ」
食べて強くなれるのはフードファイターくらいなものですよ。女将さん。
お腹も一杯になり次はお風呂に入りたいので、共同浴場の場所を聞くと歩いてすぐそこのようだ。早速、行ってみよう。
さすがにミーちゃんを連れて行けないので、部屋においていくことになる。バッグの中身もタンスに移して石鹸と着替え、タオル、料金がわからないので大銀貨一枚だけ持っていくことにする。
「ミーちゃん。お風呂に行って来るから、お留守番お願いね」
「み~」
そう鳴いてベッドの上で欠伸をしてから丸くなり、寝てしまった。
部屋に鍵を掛け、女将さんに預けて共同浴場に向かう。共同浴場は石造りの大きな建物で料金は五百レト、まあ、妥当な値段かな? でも、お金を稼ぐ手段を見つけないと毎日は入れないな。
番号の書かれた札を二枚もらい。服を脱いで一枚を荷物と一緒に籠に入れ、番台に渡す。盗難防止対策なのだろう。
風呂場に行くと、日本の銭湯そのものだ。入り口で突っ立っていたら、見知らぬオッチャンに声を掛けられた。
「兄ちゃん、共同浴場は初めてか?」
「はい。広くて大きなお風呂に圧倒されちゃいました」
「ハッハッハッ! そうかそうか、初めてならそんなもんだ。初めての兄ちゃんに今日は俺からのサービスだ! ここに座りな」
言われた通り、オッチャンの前に座ると頭からお湯をザブーンと掛けられた後、泡々の液体をまた頭から掛けられ、その後は頭をゴシゴシ豪快に洗われる。頭を洗われた後は強制的に寝かされ、全身をゴシゴシ洗われる。ちょっと恥ずかしかったけど、それ以上に気持ち良かった。
「どうだ、最高だろう。次に来た時は金払ってくれよな」
「はい。最高でした。ちなみにおいくらですか?」
「百レトだ」
「安っす!」
「そうだろう。そうだろう。こいつは来てくださってる、お客へのサービスだからな。次、頼むぜ」
「はい。是非お願いします」
「それじゃあ、ゆっくりと風呂を楽しんできな」
このオッチャンは日本で言うところの三助さんだな。いやぁ、ほんとに良かったよ。その後は風呂にゆっくりと入って、お湯を堪能したね。
また、来ようと思える共同浴場だった。
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