第10話:部下への退職勧告と自己退職

今井課長が、「やはり以前の清水良助所長の言っていた営業方法のが正しかったのかなー」とつぶやいた。これを聞いて、池田所長が、「こんな堂々巡りの話しも、解決にはならない、何とか新規契約をとれる先を増やして、業績の下げを止めるしかない」と大きな声で言うと、「今井課長が交際費なしで、新規契約をとれる訳ないでしょ、何言ってんですかと」反論した。話を聞いていた真田課長が「こんな議論に、時間を費やしても業績改善には繋がらない、外勤して少しでも減少をを食い止めましょ、それしかないですよ」と、あきらめ気味に言い、「じゃー外勤に行ってきます」と言い、席を立った。池田所長は、「済まないが、宜しく頼む」と頭を下げると、真田課長が、いや、ちがう、「今井所長や世田谷営業所や会社のためじゃない、自分の家族、給料のために頑張るんです」と言って、営業所を出て営業に出かけた。


 しかし4月になっても5月になっても、業績の回復の兆し、さえ見えてこない。

 6月には、会社内で早期退職の噂まで飛び出してきた。7月に東京営業部の鮫島太一部長が来て、「たまには外で食事しながら話そう」と、外に出て、レストランに入り奥の方で小さな声で、「遂に、会社から早期退職者を募集する事になると言われ,業績の悪いセールスを一掃せよ」と、上司からの命令が出たと知らされ、もう既に、そのリストはできていると言い、その書類を見せてくれた。これは、渡す訳にはいかないが、「世田谷からは山田鉄男、君島三郎、安井健二がリストに載っている」と言うと、「山田鉄男は、まだ入社1年半じゃないですか」と言うと、「そうなんだ、ひどい話だとは、わかってる、でも社命だと、言われ、池田所長には、退社させる口実を考えて欲しいと言われ、それはいくら何でもできません」と言うと、「何回も同じ事をいわせるな、社命だ」と言った。


 期日は、いつまでですかと聞くと、「できるだけ早くと」言われ、聞いておきますとだけ答えた。食事した後、鮫島部長が、「俺も、お前も人ごとではないんだ、いつ、俺たちに退社勧告が出るかもわからないんだ」と言い「うちも子供2人が、私立大学に通っているし、マンションのローンも20年以上残っていて、人ごとじゃない、頭痛いよ」と、部長が自分の事ばかり言うので、池田は、内心、頭にきていた。食後、「用件は、それだけですね」と言い、仕事に行ってきますと、席を立った。


 8月に、また東京営業部の鮫島太一部長がきて、今井所長に、まだかよと、言うので、「部下を辞めさせたくないと、言い、その代わり私が辞めます」と思わず言ってしまった。すると、「そーか、君が辞めるのか、良いご身分だなと言うので、冗談じゃない、こんな理不尽なこと納得できないだけです」と伝えた。ところで、「お前、年は、いくつだと聞くので50歳」と言うと、「いいな50才は、今の退職金の倍額、出るそうだぞと、にやけた顔して言うのに、我慢がならなくなって思わず、ふざけんな」と言って、席を立って、店から出て行った。その後、辞表を書いて、提出して、2001年8月25日付で退職、退職金1800万円の倍額3600万円が入金され、退職当時、預金額は1500万円程度であり、池田松男の資産合計は5100万円になった。

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