#066:徒労な(あるいは、エンザイム=レイディー)
「ご相談があります」
準々決勝をからくも勝利した僕だったが、そろそろ体力というか精神というか、とにかくあらゆるキャパが限界との指令を、脳が全身から受け取り始めている。次の対局が始まるまであと40分あるかないかだ。僕ら一同は再び観客席の方へ戻り休息を取っていたが、切り出すなら今しかない。
「少年……まずは素晴らしい勝ちっぷりに乾杯だ」
不穏な空気をいち早く察することに長けているアオナギが、先手を打ってねぎらいの言葉で僕を丸め込んでこようとしてくるが、そうはいくか。
「……自分はもう限界です。代ってください」
簡潔に窮状を述べ、そしてシンプルに意向を伝えた。
「……いやいや、いい流れじゃねえか。あとふたつ、このままでいけると思……」
「……めちゃくちゃ危なかったじゃないですか、前戦。……何というか、感じるんです。自分はもうこの一日で飽きられ始めている」
アオナギの言葉を遮り、僕は主張する。名前ネタはもう次は通用しないだろう。その他のことなんてたかが知れているし、何より「ランダムバトル」への対応が難しすぎるよ。僕が「10,000ボルティック」を食らっていた展開もあり得たはずだ。
「いやいやいや、そんなことないぜぇ室戸ちゃん。名前に関しては確かに、『チャラ男殺し油の室戸』だとか『オーバーキル室戸』だとか、知れ渡っちまって初見のインパクトが薄れてきた感はあるぜ? だがよぉ、おめえさんには一発があるじゃあねえの。ランダム云々とかルールを物ともしねえその強心臓といいよぉ。先鋒を外すわけにはいかねえよお」
丸男も、僕を持ち上げつつ懐柔の体だ。そんな妙な異名がついていたのは知らなかったけど。
「言ったはずだ、少年。溜王はチーム戦だと。お前さんが例え負けても、後に控える俺らがいる。安心して行ってくれ。骨は拾ってやる」
いや、だから骨になるような電流がいやなんですって!
「……とはいえ、ここでエースを使い倒して潰しちまうのも得策じゃねえ。いいぜ少年、次は大将席でゆっくりくつろいでな。俺らが最悪でも二人で決めてきてやる。お前さんには回さねえよお」
え!! 通るのこの提案!! なかばというかほぼ無理だろうな的に言ったのだけど、案外すんなりアオナギには承諾された。い、言ってみるものだなあ、と思いたいけど、その性悪顔の奥に何が潜んでいるかはまったく計り知れないわけで。
「先鋒:相棒。中堅:俺。次戦はそれで行く」
「よっしゃぁ!! 腕ならしにゃあ、頃合いよぉ。見ててちょおよぉ、室戸ちゃん」
碧のメイド服に、顔には白黒のペイント。改めてディープなインパクトを持つその異様を引っさげ、ついに丸男が動く。何か頼もしいな。さすが有段者。
「……準決勝っ!! 第一試合はっ!! ナンバー19、
午後2時。ブースQにて、予選6組準決勝第一試合が始まる。今回の実況少女のカラーは黄緑。ロングのストレートの正統派美少女といった佇まい。特にクドいキャラ設定もなさそうだ。ただそれだけで少しほっとする自分と、ちょっと物足りなさを感じてしまう自分がいることに、もう僕はやっぱり限界だったんだなぁと一人思う。しかして、何かいやな予感が未だまとわりついているのも否定できない。
「ランダムバトルっ!! お題は〜!?」
やはり当然のランダムバトル。そこはもう想定内だったが、その後にディスプレイに示されたルールが、やはり想定の範囲外だったわけで。
「『総当たり×総選挙』」
「総」。この一字に非常にいやな悪寒が走る。
「チームバトルっ!! 三人タッグマッチ!! ……これはここ一番で非常に盛り上がる形式が選択されましたっ!!」
嗚呼。先鋒とか関係ない感じですよね。まあこの程度のことではもう驚かないよ。うん。
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