#062:試練な(あるいは、茶番なる愛憎劇)

 一触即発。思わぬところで修羅場に巻き込まれてしまった。丸男はともかく、アオナギまでもがこうまで闘争心らしきものを剥き出しにするのは、このカワミナミさん関連の時のみな気がする。一体過去に何があったと。


「順調に勝ち進んでいるようだな。何よりだ」


 ふっと鼻から息を抜きながら、カワミナミさんはあくまで自然体で語りかけてくるけど。

 

「てめえに言われるまでもねえ。少年と何かしらあったそうだが、残念だったな。そんなもんではオチねえとよ」


 アオナギが盛大にガンをつけながら顎を突き出す。何かしらは無かったですけどね。酔っぱらって寝こけただけ。


「……私は君らのチームと戦いたいだけだ。こちらは1組で二連勝した。あとひとつで決勝進出が確定となる」


 カワミナミさんがそう淡々と告げるが、すごいな。さすがというべきか。


「あーそうですかい。そいつぁすげえや。せいぜい足元すくわれねえよう気をつけなはれや」


 丸男もずいと前に出てそう威嚇するけど。この一方的な確執は……ワケわからない。


「……ジュン坊、ユウダイとは会ってるの?」


 と、今まで沈黙だったジョリーさんが、やけに探るような目つきでカワミナミさんに言葉を投げかける。心無しか、その口調もやや硬い。


「いや、選手権が二週間後に迫っているからな。会えてはいない。連絡は交わしてはいるが」


 ちょっとカワミナミさんの顔がこわばったようだ。諸々事情を飲み込めてない僕は完全に蚊帳の外だけど。


「……出るとかいう噂きいたわよ。この『溜王だめおう』に」


 ジョリーさんの言葉に射抜かれたように、カワミナミさんの体がぴくりと反応したのを僕は見た。「ユウダイ」ってカワミナミさんの話に出もでてきた「春中アノ」のことだよね。


「……そんな話は本人から聞いていない」


 必死に平静を保とうとしているかのように、カワミナミさんは不自然な無表情だ。


「ま、ほんとに噂レベルだけどね。てゆうかまだその姿を対局でもこの会場でも見かけてないし」


 ジョリーさんはそう言うと、気を取り直すかのようにむほり、とひとつ微笑んだ後、


「足元すくわれずに、がんばんなさいな。ユウダイがどう来ようが、今のあんたにはカンケーないはずだからねぇん。それより言うまでもないかも知れないけど、こちとらも最強の面子でぶつかるわよぉん。このメイド……えーと、メイド・イン……ヘルン?」


 そこ!! はっきりと声張って!!


「まあ、このチームが巻き起こすわよぉん、渦を。波乱の」


 にやりとするジョリーさん。カワミナミさんもやっとその表情がほぐれたようだ。アオナギ・丸男は相変わらずそっぽを向いたままだが、まあ、仲良くやっていきましょうよ。


「期待している。だが君らの次の相手は……ケイン堀之内のチームだった。用心してくれ。少年との相性は最悪と思うからな」


 カワミナミさんの忠告に、えーそーなのーと、ここまでアゲてきたテンションに少し水を差された気分になる僕。


「天衣無縫。ひとことでいうとそうなる。巻き込まれたら終わりと思っていい。自分のペースで行ってくれ。決勝で会おう」


 言いつつ踵を返すや、颯爽とカワミナミさんは僕らの前から去っていく。


「バカめ。少年の才気を何もわかっちゃいねえ。相性だなんだ、そんなものとは無関係よ。巻き込まれる? 逆に巻き潰してやれよぉ」


 アオナギにばんと背中に気合いを入れられるが、チームは3人なんだからそれこそフォーメーションで行きましょうよ。相変わらず僕のワントップで試合は進行していくようで。


 カワミナミさんの言うことが確かなら、次こそ正念場……大分自信もついてきてるものの、そういう時がいちばん危ないよね。純白のエプロンの紐を改めて結び直し、僕は気合いを入れ直してみた。いくぞ準々決勝!!

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