#050:軽薄な(あるいは、溜王国漫遊記)

「6組っ!! 第一試合が始まるよっ!!」


 透明なアクリル板のようなもので四方を囲まれた「ブースA」に入った僕らは、先ほどの電飾少女とは別の、少しロリっぽい顔だちの、黄色ベースのフリフリ衣装に身を包んだ少女の声に迎えられたわけで。髪は黒のおかっぱっぽい感じでその上に黄色いベレー帽をちょこんと乗せている。


「実況はワタクシ、セイナちゃんが担当するのだっ」


 黄色少女―セイナちゃんはそう言って元気っ娘っぽい仕草で片手を突き上げる。それに合わせ、ブース外から例のうおおおという歓声が沸いてくる。アイドル化云々が問題視されてたけど、運営側にもその原因の一端があるんじゃないの?


「……」


 しかしメイド服にかっちり身を包んだ我々に何かを言う権利はないわけで。ブース内は意外と広く、15m四方はあるだろうか。まずその中央に鎮座するロープの張られたリングに目を奪われる。水色のキャンバスはよく見る色だけど。


 そしてクレーンのような鉄製の巨大なアームが二本あり、それぞれリングの対面同士から、中央へ二つの座席のようなものをそのトップロープの上空から降ろしていた。うん、結構な威容だ。


「緊張してるのか? 少年」


 アオナギが背後の僕を見やり、そう聞いてくる。まあまあ緊張はしてますよ。このシートから電流がお尻に放たれるわけでしょう?


「……こないだのタメイド戦と大差はねえ。要は己のDEPを、与えられた持ち時間だけ、ぶちかますだけだ。あと、調子に乗ったり、逆に萎縮しすぎて、つい嘘こいちまう事だけは気をつけてな。えびぞるぜぇ」


 言いつつアオナギはさっさとリング脇のパイプ椅子にどっかと座り込む。丸男もまったくの自然体でその隣へ。さすがに場馴れしてんな。というか僕が最初に行くっていうのは暗黙で決まってたんですね。僕は聞いてないですけど!!


「ムロっちゃん、フォーメーションイプシロンよぉん」


 腕組みをするメイド服のおっさん二人の後ろで、自称セコンドのジョリーさんがそう指示を飛ばしてくるが、そもそもフォーメーションもくそも完全なノープランでしょうよ。


「ナンバー6!! ナンバー19っ!! 両チーム先鋒、リング内の対局シートに着いてねっ」


 セイナちゃんの元気な声に押され、僕はロープの隙間をよっこいせとくぐり抜けると、「対局シート」と呼ばれた歯医者の治療椅子みたいな肘掛け付きの座席に背を預ける。


「おほっwww なかなか可愛いコいるじゃねえのww オレ緊張しちゃうってww」


 と、正面のシートから軽薄そうな声が掛けられる。茶色の長髪。整ってはいるのだろうが、何かしまりのない顔つき。黒い細身のスーツに真っ白い開襟シャツ。ごついネックレスやら指輪をこれ見よがしに光らせている。ホストか。ホストがこの戦いに何の用だ? 僕はこの手の輩が虫酸が走るほど嫌いなわけで。眉間に皺を寄せてガンをつけてやる。


「ふわーww かわいい顔しておっかねww 楽しくいこうっつーの。終わったら連絡先教えてーww ってか、俺ら勝ち進んじゃうから優勝するまで待ってて欲しいかもww」


 ホスト風チャラ男が後ろの仲間達と下卑た笑い声で盛り上がる中、僕は冷たい怒りを腹の底に秘めたまま、こちらの仲間を見やる。そこには碧のメイド服に身を包んだ頭包帯男が顔を赤黒くしつつ、怒りを瘴気のように迸らせていたわけで。


「……ムロさん、サキさんっ……懲らしめてやりなさいっ!!」


 ご、ご老公……言われなくてもやってやりますって。さあ、初戦だ。


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