#049:忌憚な(あるいは、こんなオープニングテーマはイヤだ!)


○溜王国 国歌


(セリフ)「ワイはダメや!! 人以下のダメでしかないんやー!! フオオオオオォォォ!!」


舞え つむじ風 苦悩を隠せ


ありのままのダメさを晒し

退いて媚びても 省みぬ


ダメオス ダメージョ ここに在り

ダメの無いやつぁ 俺んとこに来い(来い) 

ここにあるのはダメばかり


君の値段はなんぼ?(なんぼ?)

ふたり合わせて三本(¥30,000)だー キミとボクとで三本だ

哀しみの海は ダメで飛べ 翼よ あれが ダメの灯だ


ダメよ ダメダメ そこはダメ

その周辺の そこもダメ


(セリフ)「君はダメのために死ねるか?」


不毛の大地に そそり立つ

輝け 我らの 溜沢だめさわ


 ……球場が一体となり地下空間を雄々しき歌声で震わせる。コケそうになるのを何度も堪えながら、僕はいっこくも早くこの国歌が終わるのを願っていた。それにしても長えよ。最後、小学校の校歌みたいになってるし。「溜沢小学校」が実在するのなら、謝罪レベルだろ。


「……」


 そして何故みんな真剣に唱和する? やはり僕はここでも異端者だ。つっこみ所で隈無く覆い、つっこませることを封じる、そのスタンスはダメ業界ではどうやらありきたりのことらしく。ようやく悪夢のような歌声が止むと、電飾少女が再びマイクを手にとった。


「予選トーナメントぉぉぉぉ、組み合わせ発表ぅぅぅぅっ!!」


 ざっ、と後ろの大型液晶モニターを指し示す。またしても参加者・観客からの歓声が巻き起こった。始まる。ついに。


「おいおい、初っ端じゃねえの、俺ら『19番』は」


 アオナギが言うが、番号とか聞いてない!! 慌てて「予選6組」と表示されている、縦になったトーナメント図が左右二つ合体した表に目をやると、「19」は確かに左のブロックの上から二番目に位置していた。その下には「開始9:00」の文字。いきなりか……三人が揃っててほんとに良かったよ。


「今日の審査者とか、観客さんの食いつきポイントとかはつかめねえけどよお、ま、楽ぅにいこうや」


 今日の丸男はやけに落ち着いている。何か頼もしいほどだけど。逆に怖いと言えなくもない。


「ムロっちゃんには関係ないでしょぉぉ。しっかりねぇん」


 むほり、と笑ったジョリーさんに背中をばしりと叩かれ、気合いが入る。ひとまず着替えてこないとだけどね。


「対局場所は『ブースA』。レフト方向の一番奥だ。遅れるなよ」


 アオナギは言うと、懐に手をやった。たぶん喫煙所を探しに行くんだろう。開始まであと30分。僕は、わらわらと動き始めた人の波を避けながら、「更衣所」とパネルが掲げられた仮設テントのような場所を目指すのであった。


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