何が、彼女を殺したか

黒澤伊織

序章

 19XX年9月6日夕刻、ある一人の女の子が殺された。

 彼女の名前は、雨ヶ谷あまがや真紀まき。この年の春、小学校へ上がったばかりの一年生で、三つ年上には、由紀ゆきという姉がいた。

 父親の洋介ようすけは食品会社に勤めており、母親の美希子みきこは専業主婦で、真紀が小学校へ上がるのに合わせて、パートを始めたばかりだった。

 彼女を殺したのは、村野むらの正臣まさおみという、大学生の男だった。

 その犯罪の残酷性と反省の見られない態度から、第一審は彼を死刑としたが、最高裁では無期懲役が言い渡され、その身柄は拘置所から刑務所へと移送された。


 それから二十五年後。

 彼女が死んでしまった世界で、いまも村野正臣は刑務所の中で生きていた。

 それは被害者遺族たちも同じだった。生きている彼らもまた、あるいは復讐に燃え、あるいは愛をもって犯人を赦し、あるいは断絶を前に途方に暮れながら毎日を過ごしていた。

 これはそんな彼らの物語である。死んでしまった彼女以外のための、生き続ける人間たちの物語。

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