サヨウナラ


あの人が微笑むたび、欠伸をするたび、君はすぐそうやって反応する。少しは―――――

「……少しは、こっちのことも見給えよ」



耳のすぐ横を劈くやかましい爆裂音。

――――それは耳横まで差し迫った脅威を、相棒が撃墜してくれる音だった。その音を、戦場で何度も聴いてきた。……破りに壊っても、とことん敗れない。そんな勁さを、彼は有している。そんな彼を好む。彼を好むこの眼に、曇り無きと信じる。彼曰く、我が眼は些か盲目たるきらいがあるのだそうな。そんなことは無いと思うのだけれど。


「……ああ済まない、見てはいるんだ」

「見てなかっただろ、今。こっちを」

「見てはいたんだよ」

「じゃあ何で一々毎回焼かれてるんだろうね。この手は」



そんな応酬をずっと続けていたものだから、これからもずっとそんな応酬が続くものだと思っていた。見守り続けてくれる人がいるから、何処へだって翔び続けられる。曇りなき眼で、ずっとそう信じていた。







「……くっ!  ふっ……」

彼曰く、我が眼は些か盲目たるきらいがあるのだそうな。……そんなことは無いと、信じたかった。今こそは盲目でありたい。この現実に。


「……もういい。下手くそな心肺蘇生だな。ただ胸が痛いだけだ……」

「……言わせないぞ!!」

「言わせてくれ」




――――――――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る