レベル99の勇者 vsレベル1の魔王


「……貴様を斃すためにどれだけの犠牲を払ったことか。今日こそ引導を渡してやるぞ、魔王!!」

「まって!! 私何もやってない!! お父さんがもし何かやったのなら謝りたいけど……おとーさん……ぜんぶ、わたしを、まもるために……」

「な……—ー泣いちゃったよこの子……!」



勇者一行は、魔王の玉座を前にして、まさかの決断を強いられていた。先代魔王の横暴を糺すために多くの犠牲を払い、ようやくここまで到達した。死んだ仲間もいた。逝ったエルフもいた。だからこそ……! でも……!


「あ……あの、この子を殺すことは無いんじゃないかしら。あくまで悪いのはこの子のお父さんだったわけだし」


最初に正論を宣ったのは魔術師だった。そう、彼女はいつも一々正論を言う。ぜんぜん否定はできないし。とりあえず本筋としては彼女に話を合わせたいが、勇者として一応の体裁も保っておこう。


「しかし……一体どうすればいいんだ! このまま手ぶらで帰れというのか……!!」

「手ブラ~? こんな幼気な少女に手ブラさせちゃ、さすがにまずいでしょー。でもアリかなー。うふふふふ」

「お前はちょっと黙ってろ!!」

いや本当に黙ってろ。この女はなんだっけ、建前上は僧侶っていう役職だっけ。僧侶ってなんだっけ。


「……勇者殿。とりあえずこの子は今のところ脅威では無さそうですし、孤児保護の名目で一度王都に連れ帰っては? このままでは可哀想です」

さすがメインの盾役者。堅実な意見を言ってくれる。……でも若干頬が赤いのはなんでだ? 風邪でもひいてるのか?




その時、おもむろに魔王が口を開いた。


「わたしを何処に連れていこーというのだ……!! わたしっ……おとーさん……っ、なにも、わるくない……っ………ここ、おうち」


勇者一行は一様に閉口した。『あ……ごめんなさい』と。





「……しかし、現実的な問題としてですぞ。このような所に、子供を一人放置して去るというのは」

「可哀想です!」

「可哀想よん☆」


いや……まあ確かにそれもそうなんだ。実際自分自身、もう良心の呵責に色々苛まれてる。


「ま……魔王。お前、ちゃんとご飯は食えてるのか?」

「たまごやきなら、おとーさんにおしえてもらった。ちゃんと一人でつくれてるぞ」



―――――その日から、勇者一行は魔王城に住み込むようになった。娘がハタチになるまで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る