短篇集

@tcbn2453

転生したら神になった

「―――――ねえ。貴方。”神様”になりたくない?」

「……は?」




 葉鳥一郎、26歳。――――だったもの。今は転生して、いわゆる”神様”の事務を担当している。天職とは言い難いが、なんとも数奇な転職だ。


「……このごろさー。”転生者”とかってさ……多くない? つか、何この仕事量。一番楽な部署ってことで最初は赴任したんだけどー」

「まあ、最近多いですよね―――……つか、僕も異世界からきたんですけど。なんでこの仕事に回されてるんですか」

「人手不足なのよ~。えーん」


 この「えーん」とか言ってる先輩が、自分をこの部署に転生させた張本人なのだけれど……。本来ならばどこかの異世界に転生して、英雄としての道を歩むはずじゃなかったのか。

 しかし確かに泣きたくもなる。転生手続きに関わる書類は膨大だった。何せ世界の辻褄を合わせなければならない。一度死亡して、新たに生まれ変わるパターンなんか最悪だ。一件につき書類百枚は優に超える。関係各所の神々との摺り合わせも綿密でなければならない。中には割と抜けている神もいるけれど、そういう時は事務方でフォローする。そもそも神が存在しない世界もあったりするので、色々と大変だ。


「ええと。C-No.184563、シュライクヴェルト皇国に転生したQ-87211さんへのプレゼンはファティーリアさんの担当でしたが、先方の都合で長期出張になるようですね」

「あの子先月まで会計課じゃなかった!? そんな子まで現場に出てるの……」

「我々にお鉢が回ってくる日も、そう遠くないでしょうね」

「そうなったら誰がこの仕事するのよ! もう!!」

「はあ、言っててもしょうがないですよ。もう淡々と仕事をこなしましょう」



――――今では自分がこの先輩を宥める立場。ああ、神よ。……ああ、いわゆる”神サマ”って、自分たちのことなんだっけ。実感が沸かないどころか、疲労感だけが積もってくるなあ、もう。


 そんなある日、頭をポリポリかきながら、先輩が職場にログインしてきた。……もう何年か一緒に仕事してるんだからわかる。先輩がこういう風に頭をかきながら入ってくる時は、何か言い難そうなことを言おうとしている時だ。仕事の手を一旦止めて、ふうっと一息吐く。


「……今度は何です?」


 彼女は何も言わずに歩き、自分の席に着いた。こんなことは初めてだった。こっちが何かを言うと、大体ふざけた様な返しがある。そんなやり取りを、何年か一緒にしてきたはずなのに。機嫌でも悪いのだろうか……?

 およそ10分ほどそのまま黙々と仕事をしていただろうか。おもむろに彼女が口を開いた。


「C-No.584563、T-87211……」

「……なんです?」

「君の担当ではないけれど、出来ればその転生者のことも見守っておいてほしい」

「C-No.584563の、T-87211……? というと、これから転生予定の方ですか」

「期待しているよ、神様」



 後日、先輩が一人転属してしまった。

いや、とある世界を救うために転生してしまったのだった。

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