ほんとに眠いんです

 昔、夜は本当に暗かった。

 太陽と月しか光が無かった。

 まずホモ・なんとかかんとかは火を手に入れた。灯りを手に入れるまでの間、相当長い間、室内は暗かった。



 現在、先進国は、24時間照らされている。社会は動き続け、部屋の中は昼も夜でも区別がつかなくなった。人間は寝ることを忘れ、人類史上最大の睡眠不足に襲われていた。



 睡眠不足の人類は、あるとき一斉に白昼夢を見るようになった。同じ虚構を信じ始めた。



 世界はひとつになれるとか

 愛さえあれば良いとか

 みんな平等になれるとか



 どれも理想であり、虚構であった。



 一方、世界の睡眠不足のバランスを取るかのように、永遠に眠り続ける人間が現れた。脳死かどうか議論されたが、まともに問題と向き合える人間はいなかった。



 世界はひとつになれない

 愛だけでは生きていけない

 人間は生まれた瞬間から競争にさらされている



 それが彼らの見る世界だった。



 クールな彼女は、もう2ヶ月はベッドで眠り続けていた。たまにおやつのクッキーを食べに起きるのだ。

 寝不足の僕は、そのうち彼女が起きたらすぐにクッキーが焼けるように起きていた。半目でうたた寝をしながら彼女の横で座っていた。

 愛があれば、ふたりでも生きていけると思うから。

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