第90話 番外編「ゲーム・オブ・スローンズ」第8シーズンを見終えて

SPOILER ALERT:物語の核心部に触れる部分が含まれます。






 ウィンターフェルでの夜の王との戦いが事実上のフィナーレだった。そこから後、キングズ・ランディングの惨劇とそれにまつわる人々の死は長いエピローグであり、この神話をあの世界の現実とつなぐブリッジになっている。


 ブランは未来の分岐を見つめている。まず夜の王の南部侵攻を食い止めないと未来はない。そのためには七王国のあらゆる戦力が必要とされ、ジョンはデナーリスに臣下の誓いを行い恋仲になった。ジョンは仲間とともに壁の向こう側に乗り込みゾンビを確保してデナーリスのドラゴンで連れ帰り、サーセイに示した。

 そのような努力もサーセイがラニスター軍や傭兵軍を差し出さずに終わったが、デナーリスの穢れなき軍団(アンサリード)、ドラスク騎兵とスターク家を支持する北部諸侯、ナイツウォッチ、北の民、光の神を信仰するブラザーフッドやハウンドがウィンターフェルに結集した。

 ジョンとデナーリスにとっての栄光の時がやって来た。ドラスク騎兵とサー・ジョラーが騎馬突撃を敢行するが効果がなく、城の外側で陣形を組んだ穢れなき軍団も突撃を受けるたびに後退を重ねる。

 デナーリスとジョンはドラゴンを駆り夜の王のゾンビ軍勢を焼き払うが多勢に無勢。吹雪で視程がなく城壁手前に設けた火焔壕に火がつかず苦戦が続く。そして火焔壕がようやく炎上して敵を食い止めた時、ゾンビがその壕に身を投げ出していく事で突破口が形成されて崩された。

 撤退する騎兵や歩兵。リアナ・モーモントら撤退路守備隊が彼らを収容するがほどなく城内に侵入されリアナ・モーモントらが敵と刺し違えながら戦死していき夜の王の力で敵側として蘇る。

 世界の記憶にアクセス出来る三つ目のカラスとなったブランは敵を誘引。ブランを守る鉄諸島の兵士が斃れていく中、シオン・グレイジョイが最後の壁として夜の王に戦いを挑み斃れた。

 こうしてもはやブランを遮るものがいなくなった時、城内を駆け抜けたアリアがヴァレリア鋼の短刀を夜の王に突き刺して辛うじて勝利を得た。


 物語はここで終わってよかった。ジョンとデナーリスたちの連合軍が勝利した。それでいいはずだった。でもこの物語にはエピローグがある。七王国が誰の手でどのような未来へと進むのかまだ描かれていない。


 ジョンは北部諸侯の軍勢を率いてデナーリスを七王国の女王にすべく動き出した。デナーリスはウィンターフェルの戦いでサー・ジョラーを失っている。穢れなき軍団も半数が戦死。そんな中、再開されたサーセイ軍が立て籠もるキングズ・ランディングの戦いはクァイバーンのドラゴン銛砲によりドラゴン1体が殺され、海上ではユーロン・グレイジョイの艦隊がグレイワームとミッサンディが乗船していた艦隊を襲い、ミッサンディがサーセイの手に落ち城壁で処刑された。


 その一方でジョンは出生の秘密を出兵前にサンサ、アリアに話をしてしまっておりその情報はヴァリスやティリオンの知る所となり、ヴァリスはジョンを王位につけようと画策した事がデナーリスに知られて処刑された。ジョンの出生の秘密はウィルスである。知っていれば最悪デナーリスによって殺される可能性があった。ヴァリスはその第1号になった。


 このようにデナーリスは友といえる腹心の部下を殺され、幕僚たちはウィルスと化したジョンの出生の秘密によってその忠誠心が信じられなくなっていく。ジョンは女王だと言うが恋人だった時の関係に戻ってくれない。


 キングズ・ランディング攻囲戦が始まった時、ティリオンたちからは鐘がなれば開城・降伏だから停戦命令をとデナーリスやグレイ・ワームに求めていた。デナーリスがクァイバーンのドラゴン銛砲を急降下攻撃でかわして艦隊を撃滅し城壁に配備された銛砲も城壁ごとドラゴンの火焔で破壊した後、サーセイとは関わりない所で鐘が鳴らされた。停戦するかもしれない瞬間にグレイワームは槍で戦意を喪失していたラニスター兵を刺し殺し、デナーリスは「ドラカリス」を唱えドラゴンにあらゆる建物を絨毯爆撃するかのように火焔爆炎を浴びせかけた。


 サーセイは弟ジェレミーの道案内で落ち延びようとする中でドラゴン厩舎の天井崩落に巻き込まれ姉弟ともども亡くなった。


 デナーリスは勝利宣言を行いグレイ・ワームを陸軍司令官に任命した。そして七王国の領内解放が終わるまで戦いは続くと宣言。ティリオンとジョン、アリアを絶望させた。

 アリアはデナーリスには殺意があると暗殺者の目で語り、ティリオンは彼女の正義は終わりなき殺戮になるだろうと予言した。

 ジョンはデナーリスに忠誠を誓っておらずジョンの出生の秘密を知るサンサやアリア、ブランの命も危ういと理解した。そして王国内に生きる人々にとって仇をなす存在が誰かという命題に対して答えを出した。ジョンはデナーリスに女王への忠誠を誓いつつ、短刀を突き刺して殺す事で最後の使命を果たした。


 ドラゴンはデナーリスの死を知ると鉄の玉座を火焔で溶かして消滅させ、遺体を足で掴むといずこかへと飛び去った。

 グレイワームはジョンを拘束したが処刑はしなかった。そして七王国の領主や代理が集まる中で七王国の支配者を決める話し合いが行われ、エドミュアがつまらない話をしようとした瞬間叔父をサンサが一言で黙らせた。六王国がティリオンの提議によりブランを一代限りの王として即位する事を決した。そしてサンサはそれに加わらず北の王国の独立を宣言して承認された(夜の王との決戦で多大な犠牲を払った代償。そして六王国で何かあっても北は関わらないという意思か)

 その上でジョンの処遇についてグレイワームとサンサ、そしてブランの間で激論がかわされた後、カースル・ブラック送りになる事で妥協が図られた。


 キングズ・ランディング海岸。北へ向かう船に乗り込むジョンはスターク家の生き残った三人の妹弟と別れを告げた。




 ウィンターフェルの戦いによって新しい未来が開けた。その中でジョンの出生の秘密がデナーリスを追い込む引き金になり、ジョンに最悪の選択をさせる引き金となって働いた。この事はブランがジョンに出生の秘密を教えた事に端を発している。

 ブランは全てを自分の決断にはしなかった。サンサとアリアに教えるかどうかはジョンに任せており、ジョンもまたスターク家の血縁者らしく原則論にこだわって教える選択をした事でデナーリスを手にかける大きなきっかけとなった。


 最後にスターク家の物語としてみると生き残った子ども達はそれぞれに使命や道を見出している。ブランは六王国の王となり、サンサは北の王国の女王になった。そしてアリアは探検家として船で西の果てに向かっている。

 元の鞘に戻ったのはジョンだけだった。彼が最後に得たのは北の民たちだけ。そして彼らはカースル・ブラックを発って壁の向こう、自由な世界へと消えて行った。


 ジョンは最後に六王国と北の王国の物語から自由になった。アリアもそうかもしれない。これ以後の物語があるとすればブランとサンサと未来の王位継承者や王国内の人々の物語となる。

 ジョンやアリアについて語られる事があったとしても、それは王国の物語ではなく二人それぞれの物語となるだろう。

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