第74話 映画「ドント・ウォーリー」ガス・ヴァン・サントによる物語の合奏

映画「ドント・ウォーリー」原題 "Don't Worry, He Won't Get Far on Foot"

・交通事故で四肢麻痺となった後に風刺漫画家となったジョン・キャラハンを描いた。

・出演:ホアキン・フェニックス、ルーニー・マーラー、ジョナ・ヒル、ジャック・ブラック

・監督・脚本:ガス・ヴァン・サント



 英語版Wikipediaにジョン・キャラハンの生涯について簡単な略歴が紹介されているが、1951年生まれで21歳の時、劇中にあったような事故で四肢麻痺となった。2010年に死去。


 冒頭、アルコール依存症自助の会、講演会、街中で転倒してスケボー少年達に助けられるジョンなどが説明なしにシャッフルされて出てくる。そしてそれらはこの物語の複数の起点となっていて重層的にジョンの半生が描かれていく。トリッキーな脚本構成を取っており当初混乱するがあまり深く考えずに注意して観ていればなんとなくわかってくる。


 キャスティングの妙が本作を支える。アメリカでよく描かれる当事者が体験をみんなに語って議論や肯定をする事で助け合う依存症自助の会主催者をジョナ・ヒルが、酩酊状態でジョンとバー・ホッピングする行きずりの友をジャック・ブラックが演じている。

 恋人役をルーニー・マーラーが演じてますが、たしか彼女と主人公(役の人)は実際に付き合っていたはず。自然な感じが出ていた。

 そして主人公ジョン・キャラハンにホアキン・フェニックスを当てた事が本作のポイントだと思う。「ザ・マスター」といい「インヒアレント・ヴァイス」といい、こういう役に何故か彼はしっくり来てしまう。またそこから不安定な状況を経て微笑む事ができる人になった時の演技が素晴らしい。


 この物語は3つの起点から語られている。そのうち1つは彼を救った依存症の会の主催者の死去で少し早く終えられる。

残された2つの起点はエピローグまでつながって彼が立ち直って「歩いている」姿が描かれる。


 原題は「Don't Worry, He Won't Get Far on Foot」(心配しないで、彼は歩いて遠くにいけないから)。でも彼は電動車椅子で遠くまで駆けた。転倒しても助けてもらいながら走り続けた。読み違えでなければそのひねって見せた主人公のユーモアを踏まえたタイトルのように思える。

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