愛のタマゴ
usagi
第1話 愛のタマゴ
こいつはタマゴに違いない。大体見た目がそっくりだった。丸くふくらんだお腹にスベスベの肌。しかもオムレツやカルボナーラが大好きで、体の9割はタマゴでできているのに違いない。
俺は横目で、コロコロと転がるように歩く彼女を見ながら、そんなことを心の中で考えていた。
彼女が俺に付きまとうようになったのは半年前のことだった。授業中に手紙が回ってきて、突然彼女から告白を受けた。彼女なんていなかったし、悪い気がしなかった(むしろすごくうれしかった)んだけど、かといって彼女とは付き合う気にもならなかった。彼女があまりにも太ってたんで、付き合う対象としては考えられなかった。ただ、、、気が合う子ではあったので、以来、ちょくちょく出かけたりする仲になった。
俺はそれまで告白なんてされたことがなかった。天パで頭はモジャモジャだし、太ってたし、汗っかきだったし、ネクラだったし。正直、どこをどう見て彼女が告白してきたのか全く理解ができなかった。自分で言うと情けない話だが。
「ねぇ、大輔。さっきからチラチラ美人さんを目で追いかけているみたいだけど、ああいうのが好きなわけ?」
一緒に歩いていると彼女がいきなり話しかけてきた。はっきり言って図星だった。俺は確かにさっき横を通りすぎたようなスレンダー美人が大好きだ。タマゴちゃんは本当に俺のことを良く見ていた。感心するくらいに。
「そうか?目を追ってるつもりはなかったけど。女子の好みって言ったって別に俺は選択できるほどの立場じゃないし。」
と、とりあえず適当に答えた。
正直、「あなたみたいなタマゴじゃなく、さっきの子みたいな人が隣にいたらどんなに幸せか」なんて思っちゃうけどさ。
そんなこと言えるはずがないだろ!俺はタマゴの顔を凝視しながらまた妄想にふけった。
「そうか!」
突然、俺は閃いた。スレンダー美人と付き合うのは無理でも、タマゴをスレンダーにすることならできるかもしれない。これは試してみる価値あり、だ。よく見ると、タマゴはかわいらしい顔をしているし。
俺が突然叫んだので、彼女はのけぞった。
「なあに!どうしたの一体。」
「いや、なんでも。」
「ちょっと明日までも宿題忘れてたの思い出した。」
「宿題なんてないじゃん。嘘ばっかり。」
彼女のそういう言い方をするところはちょっとかわいいと思った。しかも勘が鋭く、頭も悪くなかった。
「わりぃ。とりあえず俺帰るわ。」
俺はそう言って帰らずに、彼女を置いて駅前のコーヒー屋に入った。タマゴちゃんを置き去りにしちゃったのは悪かったと思ったが、それよりもどうしても気になることが見つかってしまったんだから仕方がない。
彼女はコーヒー屋にこっそりついてきたらしく、俺の向かいの席にコーヒー片手にやってきた。
「ダメだよ!大輔ってときどき私を置き去りにするよね。」
「自分勝手だって思わない?かわいい彼女が泣くでしょ。」
いや、、、だいたいお前は彼女ではないし、、、。
「で、何を見てるの?」
俺は必至にスマホを隠したが、彼女に見つかってしまった。
検索サイトに「ダイエット」という文字を打ち込んでるのがバレた。
「ダイエット??なんで?」
あー。めんどくさ。
でもまあ、いいか。
俺は切り出してみた。
最近さ、、、太り出して悩んでるんだ。
だから体を絞ろうと思ってさ。
「ふーん。いいじゃん。」
「って、なんで私を置き去りにしてまで調べる話なの??」
「いや、なんか誤解されて傷つけちゃったらかわいそうだと思ったからさ、、、」
「やさしいところあるじゃん。って!私が太ってるからってこと!?もう。」
と言いながら、タマゴちゃんはちょっとうれしそうだった。
「じゃあさ、ダイエット。一緒にやらないか。」
「いいよ、別に。」
意外にもあっさりオーケーをもらった。
俺たちは話し合ってダイエットの期間を半年に設定した。目標は体重の三割減。八十キロ近い彼女も三割も減れば…。
ただ、始めたとしても途中にやめてしまったら意味がないので、「先に目標に達したら、金銭的に無理のない範囲で相手の要望をなんでも聞く」ことを約束し合うことにし、二人で頑張ることにした。
調べてみた中で彼女にピッタリのダイエットを発見した。その名も「タマゴダイエット」。タマゴとグレープフルーツ、コーヒー、パンだけを食べるというダイエット方法で、ちょっと前に流行っていたものらしい。そして、そのダイエット方法はバッチリ彼女にはまった。
始めて一週間ほど経ったころから、彼女はみるみるやせていき、見事、想像以上のスレンダー美人へと劇的な変貌を遂げた。一方の俺は、あまり効果が出ず、少ししか体重を減らすことはできなかった。
すっかり敗北した俺に向かって彼女が言った。
「じゃあ、約束だから言うこと聞いてね。『私と付き合ってください。』そして、私のこと好きになってくれたらもっと、うれしいな。」
俺の回答を待たずに彼女は続けた。
「お互いに頑張ったんだから、特別にあなたの希望も聞いてあげたいな。何か言っていいよ。」
俺はそんなタマゴを見て、急にいじらく思えてきた。こんなモテない俺を好きだといい、冷たく当たった時でも、いつも笑顔で受け入れてくれた。彼女は確かにこの半年、すごく頑張っていた。俺と付き合おうと努力してくれたんだ。
俺は思い切って言ってみた。
「じゃあさ。これからずっと、俺のそばにいてくれないか。例え、前のタマゴに戻ってしまったとしても、おまえは既に俺にとってとても大切な人になってしまったんだ。」
「何タマゴって」
「やべぇ…。」
タマゴちゃんは俺の中だけのあだ名だったことを忘れていた、、、。
大学を卒業し、俺は彼女と結婚した。相変わらず彼女はかわいらしく、スレンダーなままで、いつも笑顔で楽しそうに暮らしてくれていた。俺にとっては百点満点の奥さんになった。
「なあ、なんで俺のことを好きになったんだ?」
ふと思いついて彼女に聞いてみた。
「それは、あなたがいつもまっすぐに生きてた人だったから。私のこと好きになってくれたら、それが一生の愛になるんじゃないかって確信を持ったの。それで、あの時、頑張っちゃったんだよね。」
女って言うのは、先を見据えて計算高く生きるものらしい…。でもそれでもかまわない。だって、俺は今、世界一幸せなんだから。
そしていつの日か、彼女にタマゴができたらもっとうれしいだろうと思う。なんならタマゴそっくりのかわいらしい女の子が欲しい。
もちろん、太ってたって全くかまわない!
たとえ八十キロあったってね。
愛のタマゴ usagi @unop7035
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