第9話 反撃の狼煙
飯尾先輩は縄で捕縛された。もはや無抵抗で一言も喋らなかった。
これで取り敢えずの難をしのげたが、依然として圧倒的不利に変わりはない。
「マキトお前本当に気色悪いな」「お前とこれからも友人でいられるか不安だわ」
捕縛後に前島、後藤に言われた。おいおい、窮地を俺の機転で救ったのに、あんまりじゃないか。
「これからどうする?」
俺、凛ノ助、後藤は前島だけと別れ、防空壕から旧校舎の裏へと移った。
俺の質問に答えず、凛ノ助が唇に人差し指を当てて「しーっ」と静寂を促す。
凛ノ助は飯尾先輩から拝借したスマホから流れる、敵のライン電話の音声を聞いていた。
「第三班、チョコ乞食ニ名確保、職員室へ連行します」「第四班、3のB教室制圧。暴徒鎮圧完了!!」「新校舎の三階までオールグリーンです。四階に未だ逃亡中の暴徒がいる模様」
次々に同志たちが捕まり、
「執行室より全班、執行室より全班、一から三階の暴動は鎮圧完了。首謀者と目される凛ノ助とマキトは捕まっておらず。それ以外の場所に立て籠もっているはずだ、探せ」
銀林の声だ。銀林が総指揮を執っている。
銀林の後方指揮官としての名声は夜坂中学の内外を問わず、轟いている。
事実、これだけの暴動を黒崎を登用して、ものの数分で沈静化させてしまった。
約半年前に起った「譲葉姫奈ちゃん
名将の条件を強いて一つあげるならば、それは一芸に特化した変人を使いこなすことだから。
恐るべき戦略家、そして今は倒すべき、敵。
「もうすぐ、ここもバレる。奴らが来るぞ」
後藤が切羽詰まって言う。
「聞け、ふたりとも」
凛ノ助の声音はあくまで静か。
「我らは今、劣勢の中にいるが、決して勝利を諦めることは無い」
「けど、どうやって勝つ!? 頼みの暴動がほぼ抑えられたんだぞ?」
「人が一番、油断する時、それはいつだ?」
凛ノ助の問をしばらく俺らは考える。
「勝利を確信した時、だ……」
俺が答えた。
「そう、今まさに、敵は自分らの圧倒的優位に驕り、決して自分らがこれから不利になるとは思っていない。――一瞬の驕り、一瞬の油断、一瞬の緩み。それを命取りにさせてやろう」
そう言うや否や、凛ノ助はスマホを口に近づけ、鼻を摘んで声音を変え
「凛ノ助、マキト両名を発見。体育館の裏に隠れていた模様。繰り返す体育館の裏に凛ノ助、マキト両名発見!!」
一瞬にしては少し長い間。
「……おしっ、四、六両班直ちに体育館へ向かえ。新校舎の制圧が終わり次第、全班も応援に迎え。奴らを捕まえた者には会長から報酬一万円だ」
銀林はうまく凛ノ助の偽情報を信じた。凛ノ助は少しだけ微笑し、ライン電話を切る。
「今、暴徒を職員室へ連行するために奴らは人員をバラけさせ、かつ、俺の流した虚報を信じ、敵の二つの班は見当違いな体育館へ向かっている。これが何を意味するか?」
俺、後藤が同時に凛ノ助の考えを理解した。
「「――
誰も思いつかなかった。確かに、言われてみればそうだ。
「銀林修斗の首をあげ、生徒会執行部そのものを潰す! 今からここにいる全員で
敵の総大将を討ち取れば、劣勢側でも勝利が出来る可能性が高い。
「なるほど考えたな」
そこにようやく前島が遅れて到着してきた。
――剣道部男子十名の面々を連れて。
言うまでもないがご多分に漏れず非モテだ。
先輩、後輩含めてほぼ剣道部男子全員。中には彼女持ちのリア充もちらほらいる。それでも各々の竹刀を持って来てくれた。
「先輩諸兄、同級生後輩諸君、良く来てくれた」
皆の前に凛ノ助が躍り出る。
とりあえず皆「おおぉおお」とか「ぶっつぶせ、リア充殺す」とか良く分からないこと叫んでた。むさ苦しくて汗臭い、いつもの感じだ。
そして皆、凛ノ助についていけば面白いことがあることをよく知っている。
これで不足していた人員を補給できた。凛ノ助を筆頭に風呂のぞきのいつもの面子、精鋭部隊だ。
「行くぞっ!」
「「「おうっ!!」」」
凛ノ助以下十数名の精鋭が一斉に拳を振り上げて答える。
先陣を切るのは無論、凛ノ助。この男に陣頭以外は相応しくない。そこから前島、後藤両名を先頭に二列で進む。殿は俺が務め後方の警戒をしながら進む。
十数名は私語をせず、隊形を崩さずに廊下を駆ける。目指すは敵の総本陣、生徒会室。
旧校舎の廊下を突っ切れば、目的地はすぐそこだ。
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