平和な《異》世界の作り方

k3nn76

プロローグ 滅び行く世界1

技術進歩による繁栄を謳歌した人類は、次第にその技術を生活水準を上げるためより下げるために使いだした。


・・・そう、より効率的に人を殺し、他人や他国の持つ富を破壊するために。


その愚行を象徴する技術である核兵器はひとつの時代を築きあげた。しかし、核兵器は破壊の後に放射能汚染を残すことから資源を奪う目的に適さず、次第に主役の座を離れていった。


次に注目された細菌兵器は自己増殖してくれることも相まって、費用対効果も高く、設備を壊さず効率よく人間だけを殺すことも出来た。


しかし、突然変異により無差別に広がる可能性があり、何度かの大規模な失敗を糧に開発は下火となった。


その後、さまざまな兵器が開発されたが、ついに細菌からより大きな生物兵器へとたどり着いた。


それが「キマイラ・プロジェクト」。



このプロジェクトはキメラという架空の魔物の名前が付けられていることから想像できる通り遺伝子工学の粋を集めたプロジェクトであった。


さまざまな生物の遺伝子を組み合わせ新しい生物を作り上げることに成功したこのプロジェクトはA国で発足し、最終的に最先端の軍事兵器にも勝るモンスター「ドラゴン」を生み出した。


ドラゴンの体長は尻尾込みで40~50メートルほど。銃弾はもとよりミサイルですら大きなダメージを与えられないほど硬い装甲を持ち、その上高い自然治癒力を持っていた。


当然、防御力だけでなく攻撃力にもすぐれており、近代兵器の強化金属装甲をいとも簡単に引き裂くことのできる爪や牙、タングステン鋼ですら溶かすことができる強力なブレスまで持っていた。


ただ、飛行速度は特筆するほどでもなかった。とは言えジェット戦闘機と比べた場合に限っての話だ。大体時速300kmくらいの巡航が可能と推測された。


ただ飛行速度は特筆するほどではないが飛行能力は驚異的だった。反射神経や索敵範囲が優れているのためミサイルで狙ってもほぼ避けられてしまうのだ。


誘導追尾されてもよけて叩き落してしまうので、本気で当てるつもりなら何十発ものミサイルを同時に発動する必要があった。


また、当然A国はこのドラゴンを創り出すだけでなく飼いならすことにも成功した。


その方法はメスを施設内から出さず人質にすることだ。


もちろん、それ以外にいくつもの安全策は取られていた。

その中でも重要だったのは生まれたときからのすり込み教育と最終手段として埋め込まれた爆薬だ。


まだ、鱗が硬くなる前の幼生体の間に急所となる首の後ろへ爆薬を仕込んでおくのだ。そうすれば、大人に成長した後もその硬い装甲を無視し内側から打撃を加え殺害することができるのだ。


こういった安全措置もあり、ドラゴンは軍事兵器としてデビューした。

その効果は劇的で、世界中どの国もA国に逆らうことはできなかった。

一部逆らった国や目をつけられた国は抵抗するすべもなくドラゴン部隊に蹂躙された。


ただ、A国が見誤ったのはドラゴンの知性だ。ドラゴンの知性は研究者が想定していた以上に高かった。


A国の研究者が考えていた以上にドラゴン同士は高度な意思の疎通が可能であった。


その為、首の後ろに爆薬が仕掛けられていることだけでなく、唯一のメスである母ドラゴンが囚われていることや、他にメスが生まれた時には間引かれて殺されていることなどまで、すべてのドラゴンたちの間で共有されてしまったのだ。


当然、ドラゴンたちは怒り狂った。


反乱を起こしたドラゴンたちがまず行ったのは、お互いの首にかみつき、爆弾を首の肉ごとちぎり棄てることだ。

そんな無謀な行為も高い治癒力のお蔭で致命傷とはならない。

人間たちが反乱を察知するころには傷はすべて癒えていた。


迎撃に向かった戦闘機は準備万端で待ち構えていたドラゴンたちにより難なく撃墜された。

逆上したドラゴンたちは行く手を遮るものすべてを破壊しつつ、大いなる母ドラゴンを解放した。


自由になったドラゴンたちは、まず人間の街や兵器を壊しはじめた。




この報告を受け各国政府は即座に対応を開始した。


ただし、同じ目的に向かってではない。


同盟国に対してすらドラゴンを使った武力外交を行っていたA国に対し、同情する国はなかった。

自業自得だと切り捨てられたのだ。

また、A国の方も詳しい情報の共有を渋ったため各国の危機感が薄かったというのもある。


A国は、その領土内で核兵器を使用する段になり初めて各国へ詳しい情報共有と公式の協力要請を行った。


それに対し、各国の対応は3つに分かれた。


 ①の国々は、ドラゴンを脅威に感じ積極的に駆除しようと武力援助を行った。これは主に近隣諸国に多い反応だった。

 ②の国々は、A国の持つ生物兵器技術をさまざまな理由から自らのものにせんと積極的に部隊を派遣し調査・研究を行った。

 ③の国々は、極力関わりを持たないでいいように対策を行った。



①の国々が派遣した軍隊はA国とともに壊滅した。その後、ドラゴンたちは繁殖行為に忙しくなり戦いを止めたため、各国から見ると落ち着きを取り戻したように見えた。


ただ、ドラゴンの威力を実感した②や③の国々は、A国の二の舞にならぬようより強力な兵器の開発をすすめ、ドラゴンが飛来しても隠れられるようシェルターの建設にいそしんだ。


当然②の国々は滅んだA国のキマイラ・プロジェクトデータを奪い合った。A国から亡命した元研究者も奪い合った。ドラゴンの死体や細胞片も奪い合った。


その研究から核兵器を使っても直撃でなければドラゴンはその高い熱耐性と治癒力で生き延びろことが出来ると判明した。

そのため、対抗策の主な分野はより強い 合成獣キメラの開発や合成獣キメラ、特にドラゴンに対して有効な細菌兵器の開発となった。


A国の残した基礎技術をもとに様々な種類の合成獣キメラが開発されたが、その中で最も有力だったのが人間を基礎ベースとした合成人間キメラだ。

これは人間の持つ潜在能力を最大限活用できるよう 合成獣キメラの技術を応用するものだ。


ドラゴンへの対抗措置としては有望だったし、最初から意思疎通可能な合成人間キメラなのでしっかりと見返りさえ用意すれば協力関係を結ぶことは難しくはなかった。


欧州ではドラゴンを倒せるよう人間の身体能力を極限まで強化し、高い筋力や治癒力を持たせた「勇者」と呼ばれる合成人間キメラの開発がメインであった。


アジアの大国は反対に人間の持つ潜在能力を高め森羅万象に働きかける「魔法使い」と呼ばれる合成人間キメラの開発に成功した。


が、それらは成功例の話であり、成功の裏には多くの失敗例も存在した。失敗した合成人間キメラの多くは意思疎通が出来ず多くは人間に対し敵愾心をいだいていた。




そして、細菌兵器。これが、更なる悲劇を生むトリガーとなった。ドラゴンに対して使われた細菌兵器がコントロールを失い人類へと牙をむき大きな被害を与えた。

これで、全人口が3分の1が死んだ。


その後、残った資源をめぐり世界戦争が起き、もう3分の1が死んだ。


最後に、②の国々が開発し戦場に投与した多種多様な合成獣キメラや、失敗作を含む合成人間キメラが逃げ出し、残りの3分の1がほぼ死んだ。



ここに人類は滅亡した...ほぼ。




さてこの間③の国々は何もしていなかったわけではない。


確かに関わらないようにする努力はしていた...何が起きても関わらずにいられる努力を。


それは主に地下にシェルターを作り逃げ、隠れ、こもるための努力だった。


ドラゴンにひっかけ、各国のシェルター作りは「ダンジョン計画」と呼ばれていた。

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