第22話 劇場版『運命×少女』

 映画鑑賞は、(僕の基準では)かなりスムーズに行うことができた。

 今回ばかりは、掃除の行き届いたところを選んでくれた涼音に感謝、である。

 ただし肝心の映画の内容は、


「うーむむむむむむむむ……なんというか……びみょうというか…………褒めるところも見つけにくい映画っちゅーか……」


 という涼音の感想が全てを言い表している気がした。

 それには僕も、完全に同意である。


「……確かに、毒にも薬のもならないやつだったな」


 一応ここに、映画のあらすじを書き記しておくと、



【主人公は、ごくごく一般的な男子高生である。

 そんな彼はある日、不思議な力で『運命×少女』の世界に転移してしまう。

 少女たちに囲まれて、ウハウハな生活を楽しむ主人公。

 だが、呑気な生活は長続きしなかった。

 どうやらこの世界には、男根を崇拝する悪のミュータント軍団が存在していて、にょろにょろにゅるにゅるした触手の類で少女たちにイヤラシイ行為を働こうと目論んでいるらしい。

 主人公は、自らが創りだしたハーレム空間を守るため、人類最後の男として立ち上がる。

 だが、敵のミュータント軍団は恐ろしく強い。勝てるだろうか? だが、そう思った次の瞬間、奇跡が起こった。主人公の中に秘められた力が突如として覚醒し、ビーム的なのを自在に発射して敵はみんな死ぬ。

 主人公の圧倒的強さに、少女たちはもはや、造物主を眼の前にした信徒のようだ。

 そんな彼女たちを前に、主人公は首を傾げて、「やれやれ、参ったぜ」と言った。

 そしてエンディングロール。

 何が「やれやれ」なのか、どうして「参った」のかは結局、よくわからないままだった。】



 ……というもの。

 この手のジャンル映画をよく知らない僕にもわかる。

 これ多分、異性と観に行く類の映画としては、かなりアレな部類に入るアレだ。誘った方も誘われた方も、かなり微妙な雰囲気になるアレだ。

 こういう時、何事にも同情的な立場をとる陽鞠ですら、「あ、でもクライマックスのビーム打つシーンは良かったですよね? 大迫力です」以外の褒め言葉が見つからなかったくらいであった。


「ってかこれ、原作に比べて話の雰囲気、変わりすぎてへん? 『運命×少女』って、ちょっとダーク気味な世界観がウケとったんちゃうのん? なんやビームって。そんなん、原作に一度たりともも登場しとらんやんけ。客舐めんのも大概にせえよ」

「……まあ、映画って色んな人の思惑が絡み合ってできるものだから」

「しかし……あれはいくらなんでも……」


 僕達の心にからっ風が吹いていた。

 自分たちの好きなゲームが、かくも微妙な形で全国の映画館で公開されていることに。


「…………なんか、すまん。せめて前評判だけでも調べときゃ良かったなあ」


 殊勝にも、涼音が頭を下げる。

 僕はさすがに苦笑して、


「いや。誘ってくれただけで十分嬉しかったよ」


 と、半分本音、半分気遣いの言葉を述べる。


「せやったらええねんけども……」


 しかし、涼音は言葉とは裏腹に「うがーっ」と、理性を失った怪物のように頭を掻きむしり、叫んだ。


「こりゃアレやな。愚痴言い合って供養するしかないで、あの映画。……なあ二人とも、ちょっとこれから喫茶店行こぉーや。ええか?」


 有無を言わさぬ口ぶりだった。


「私は別にいいですけども……」


 陽鞠が、少し不安そうな目で僕を見上げる。

 すかさず僕は応えた。


「僕も問題ない」

「おっ。思ったよか付き合いええやん。てっきり嫌がるもんやと思ったけども」

「ふっ。……心配ご無用」


 一応これは、想定された事態であった。

 というのも、女の子という生き物は、映画を観た後に喫茶店で甘い物を貪り喰らうものなのだと、豪姫から事前に知らされていたためだ。


「こんなこともあろうかと、先に店を見つけておいた。とびきりうまいチョコレートパフェを出す上に清潔で、何より椅子と机に除菌スプレーを吹いても問題ないらしい」

「ほほう。……やるやん?」

「ふっ。まあな」


 映画を観終わった瞬間はどうなることかと思ったが、どうやら良好な展開になったようだ。

 影の功労者たる、狩場豪姫に礼を言おうと、陽鞠と涼音の目を盗んでスマホを覗くと、何やら神妙な表情の豪姫と目が合った。


『……さっき観た映画の件で、二つほど気づいたことがある』

「ああ、わかってる」


 唇を斜めにして、応えた。


「僕も気づいたことがあるよ。――君と同じく、二つだ」

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