人造嫁は青春する

氷ノ内(ひょうのうち)

一章 転校生

1-1 転校生

高校というものは入る前に思っていたほど面白い場所ではなかった。特に俺みたいに陰キャだのコミュ障だの言われる人は同じ思いを共有しているだろう。

小学校からそのまま持ち上がる中学校とは違って、人も環境もリセットされた場所で、田舎者の俺が青春をするなんて夢のまた夢のそのまた夢の夢の夢のy(略)みたいな話であると思う。


俺は山瀬真やませまこと、16歳。2年D組出席番号38番、コンピュータ部所属。クラスでは目立ってもなくかといって存在を忘れられていることも無く、例えるならばたまに吠える番犬みたいな感じの男子高校生だ。強いて違うところをあげるなら田舎から都会に引っ越してきたことぐらいかな。

県北にある片田舎から俺がはるばる都会にある高校に来たのは理由がある。それは実家から最寄りの高校が、電車に一時間以上揺すられないとたどり着けない距離にあるからということではなく、ただ単に一人暮らしと都会でパリピをしてみたかったというクッソくだらないものである。

だが現実は田舎者にとても、いやそれはとてもとても厳しかった。具体的には見ず知らずの人ばかりの環境というものはやはり酷だった。

引っ越してきた人間としてそれなりに注目され、自然のフィールドで鍛えた体力を生かし、適当な運動部で活躍してキャーキャー言われかわいい女子に囲まれる…といった妄想が破綻し既に一ヶ月。すっかりスクールカーストのド底辺に落ち着いた俺は、行く宛がなく入った部活で日々キーボードを打ち込む陰キャ少年になっていた。

と、十二分に脳内で自分語りをしてると車窓から学校が見えてくる。

俺が通っている学校は市立K島高校。県庁所在地のある市に海上新都心地区と銘打って作られた人工島の上に建つ比較的新しい高校だ。県下全域から生徒を受け入れている上に市が一番力を注いでる学校なので選んだが、正直普通だった。

ほぼ全ての生徒の通学に使われている電車は新交通システムのもので駅のホームには扉がつけられているうえに線路に人が入ることができない為、遅延したことは一度もない。要するに電車が来なくて休み。ってことは有り得ない。満員電車に揺られているとたまには学校をサボりたいと思う時もあるのさ。ちなみに在来線の遅延だと学校は休みにならない。

話が脱線したな。学校は至って普通なので諦めて帰り道に期待したが彼女なんていないし、カフェは注文のやり方すらわからないので入ったことない。せめて晩飯の材料買って帰るついでにカラオケ行くぐらいが関の山だった。

電車が駅に止まり、学生が吐き出される。繰り返す日常はどうしてこんなにつまらないのだろう。




学校に到着し、自分の机にカバンを掛け、筆箱と一時間目の用意を鞄から引っ張り出しているとうざい奴が頼みもしないのにやってくる。


「おはようございます山瀬くん。今日は同じ電車に乗れていたようなのであなたと駅から学校まで一緒に雑談でもしようと思っていたのですが、話しかけるタイミングを見失ってしましました」


こやつは古谷龍和ふるたにたつよし。俺と同じコンピュータ部の部員で一応副部長。俺しか話すやつがいないと見えて朝から放課後まで飽きることなくの俺の元に通ってくる。去年も今年もクラスが一緒だったのは災いとしか言い様がない。

これを付け足しておくべきか迷うが一応イケメン、優しい、礼儀正しい、清楚系といった要素を持ったある意味そこらの陽キャよりモテるやつである。


「おはようございます山瀬くん。今日もいい天気ですね」


「挨拶は一回でいいと中学校で習わなかったか?俺はお前と話すよりやりかけのゲームがしたい」


無視するとこうやって何回も同じこと言ってくる。


「なら、お手伝い致しましょう。フレンド登録はしてありましたよね」


古谷はそういうとスマホをポケットから取り出した。


「なあ古谷。お前はここで仲良く暇つぶしにゲームするより向こうに行って女子とキャーキャーしてきた方が楽しいと思わんか。お前はモテるんだから俺みたいな陰キャとつるむんじゃなくてリア充できるだろう」


俺がそう言うと古谷は溜息をつき、首を横に振った。


「僕は毎日毎日異性に囲まれて自分の理性の限界を試すより、あなたとつつましく過ごす方が性に合ってますよ。何よりグループ内の関係とかメールの返信とかでストレスを感じずにいれますしね。僕はたくさんの友人に囲まれるよりも数人の親友と一緒にいる方が好きです」


じゃあ自分じゃなくてその親友とやらにかかるストレスを考えてくれ。


「俺はあっちの方が楽しいと思うけどな。だいたいお前はあっちに行ける資格を持ってるのに行かないのが俺には気に食わん」


「大抵の人間は数の多い方に流れるものですから、そう思うのも自然なのでしょう。しかし天才とはそんな型にはまらない一般的に少数派と呼ばれる人達であり、僕は凡人で居たくないのであなたといるのですよ。進化し続けようとするのは生物の義務でもありますし」


それは進化というよりむしろ退化じゃないのか。


「俺は一般人でいいよ。天才でなくたってテンプレートに沿えばそれなりに楽しい人生が過ごせるだろうし。少数派いうものはいつだって弱い存在だからな」


そう言って俺はゲームを始めた。内容は普通のパズルゲームなのだが、古谷は異様に強い。俺が遊んでるのを見て始めたそうだが既にスコアは向こうの方が上である。

俺が古谷と嫌々でも一緒にいるのは同じ部活ということでも自分の権威を高める為でも財布にするわけでも(頼まなくても結構奢ってくれる)なくひょっとしたらゲームのお供をしてもらいたいだけじゃないのか。

と、自分のよく分からん心理を推察するもそれらしい答えを見つけられるわけでもなく、やはりこいつが俺のあとをミサイルの如く付きまとってくるから一緒にいるのだろうと時々考える。

そういや先程話すやつがいないとか俺はほざいたが、古谷はコミュ障ではないしクラスにハブられている訳でもないと注記しておこう。




「そういえば今日は転校生が来るらしいですね。このクラスに入ってくるらしいですよ」


昨日のSTで担任が明日転校生がやってくる。とは言っていたな。だがうちのクラスに来るってとこは初耳だ。


「まだ5月なのにな。どうせなら4月から来ればよかっただろ」


俺は厳密にいえば転校生ではないが、同じ境遇の者として中途半端な時期に越すことになったまだ顔もわからぬ転校生に少しばかり同情した。


「家庭の事情というやつでしょう。ご両親の転勤とかのつ… 噂をすればきたようですね」


いきなり教室に入ってきた担任教師の「せきにつけー」という声に反応し、一同はダラダラと自分の机に回帰した。結局ゲームは進まず俺は泣く泣くスマホの電源を切ってそれを鞄につっこんだ。


「えー今日から知っての通り一人お前らに新しい仲間が加わる。緊張していると思うから積極的に話しかけてやれ」


教室がガヤガヤとざわめく。よくもまあこれだけのことで騒げるなぁと言ってやりたいとこだが、俺も結構気になってるので人のことは言えない。

もちろん田舎者の俺にとっては転校生とは未知なる存在であるし、実は何気に誰かが転校してくるのは初めてだったりして先程ギリギリ古谷も勘づいていなかったようだがめちゃくちゃ気になる。


「じゃあ入ってきなさい」


担任が言った。

扉を開けて入ってきたのは女子だった。肩下まで伸ばした綺麗な黒髪、僅かに控えめの胸部、少し細く背が高いスラッとした感じの…顔は可愛い部類に入るな。The清楚系って感じだ。あと多分運動より音楽とか得意そう。

彼女は担任の横に来るとクラス全体を一瞥した。


五十川麻紀いそがわまきです。」


彼女は澄みきったアルトで名前を言うとよろしくとも言わず、軽く一礼しちらっと担任に向いた。そして担任のもう終わり?という問いかけに対し、首を縦に振ると手に持っていたリュックをよっこいしょと肩にかけた。


「じゃあ、一番後ろの廊下側の窓際の後ろの空いてる席に座ってくれ」


彼女は指定された席にいくと、椅子を引きちょこんと座った。周囲が彼女に話しかけていて教室が騒がしくなる。ちなみに俺の席はグラウンド側から二列目、前から三番に位置しているのでそこには入れない。ちきしょう。


「えー。それでは朝のSTを始める。委員長、号令」


きりーつ。


そんなこんなで適当に授業を聞き流してるうちに午前中はあっという間に過ぎ去り、俺が転校生の五十川さんと話すこともないまま、学校にいる誰もが待ち望む昼休みがやってきた。

食堂は混んでるし屋上は立ち入り禁止、教室はうるさいし、前庭及び中庭は季節の関係上リア充のパラダイスとなっているので俺は大抵校舎の外れに位置するコンピュータ部の部室で弁当を食っている。


「転校生かー。私、小学生の頃から転校生が自分のクラスに入ってきたことないんですよね。なんか憧れます」


サンドイッチの袋を開けながらそう言った彼女の名前は東里穂あずまりほ。我らがコンピュータ部期待の新人である一年生だ。


「僕は2~3年に一人ぐらいの割合で自分のクラスに来ましたけど、転校生だからといってなにか特別なことはなかったですよ。ちょっとしたら元から居た人達と溶け込んでいましたから」


至極当然のように古谷もいる。この三人で弁当を囲むのが最近のトレンドだ。


「かわいい人が転校して来たとしても真先輩は陰キャでコミュ障ですから話しかけることすら出来ない…っていうか口聞いてくれないから関係ないですよね」


「そのセリフ、結構傷つくからやめて」


東は入部してきた当初こそは礼儀正しく俺を先輩としてみていたようだが、田舎者の暗い男にくれてやる敬意はないと考えたようで、ここ最近俺に向かって口を開く時は悪口しか飛び出してこない。

ハキハキとしてて背丈は普通ぐらい、ポニテに太縁の黒メガネをかけた彼女を純粋な後輩キャラだと思ってたちょっと前の自分を罵倒し、蹴り倒したい。


「真に反論の余地はないんじゃないかな。実際君が初対面の人に話しかけられて赤面してなかったことないだろう。少なくとも私は見た事がない」


横から話に入ってきたのは部屋の前机でキーボードを叩いている渡耒真由美わたらいまゆみ先輩。小柄で胸がでかい三年生であり、生徒会会計補佐という立派な肩書きを持った頼りがいのある先輩かと思いきや、部長にして我が部唯一のサボり常習犯、先輩が放課後部室に出没するのは週一度、部長会議は常に副部長を代理に立てる、部費は滞納、持ち込まれた私物は山となり土砂崩れ寸前。といったように全然頼れそうにない。

オマケに忙しいからではなく家に帰って遊びたいから部活に来ないと本人は話す。

相当の夜型人間らしく、たまに昼休みに部室に現れるときはコーヒーを淹れブルーライトブルーライトとボヤきながらパソコンに向かっている。10分すれば大抵寝落ちしているが。しかし外面はいいらしく学内の評判はすこぶる高い人である。


「なんで俺はこんな人間なんでしょうかね。自分でも時々悲しくなりますよ」


この部屋に俺に同情してくれる人間はいないから、これはただの独り言だ。


「そうですかね。僕はあなたがとても魅力的な人間だと思いますけど。僕が出会った人の中で五本指に入るぐらいの」


古谷。お前の俺に対するお世辞は聞き飽きた。


「そうですよ。たつ先輩は素直に本当のことをいえばいいのです。」


東。お前は何も言うな。


「はいはい。この話題は終わりにしてくれ。どうしてお前ら二人は毎日俺のメンタルを崩すことをノルマにしてんだ。おかげで鬱の一歩手前だぜ」


「ちょっと前まで抱いてた後輩への憧れはどこに行ったんだ真。東に少しは聞かせてやれよ。特に罰ゲームで語ってた時は最高だったなぁ。古谷、あれ録音してなかったか」


「残念ながらしてないです。今思えばしとくべきでしたね。学校のサーバーにデータを預けてコンピュータ部の宝として、未来永劫残さなかったのははっきり言って完全なミスでした」


そろそろ俺は帰っていいか。弁当は置いとくから勝手に食べといてくれ。


「まぁまぁ先輩。聞くまでもなく言いたいことはわかるので残りの弁当食べちゃってください。休み時間はまだたっぷりあります」


いい後輩持ってよかったなぁ。という渡耒先輩のヤジを受け流しつつ弁当にむく。昨日の夕飯の残りで構成されてはいるが、自分なりによくできた弁当だ。残すのは勿体無かろう。





俺がしばらく白米を食べることに集中しているうちに話題はすっかり別のことになっていた。


「そういえば昨日の夜に全然知らないバスケ部の先輩からSNSのダイレクトメッセージで告白されたんですけど、どう返事したらいいんでしょうかね」


東よ。告白されたんだったら素直に受ければいいじゃないか。相手から言い寄ってくるなんて一生に一度あるかどうか。


「私は先輩とは違って異性を振り向かせる要素が少しはあるのでたまに告白されますよ」


俺は普通に相談に乗ってやってるだけだぞ。モテてるアピールはよそでやってくれ。


ですが。と古谷。


「知らない人には近づかないようにした方がいいといいますし、ひとまず断っとくのがいいかと思います」


しかし東はサンドイッチを包んでた紙を丸めながら首を横に振った。


「それがそうもいかないんです。その先輩かなりモテる人らしくてここで振ってしまうと周囲にメンクイと思われますし、かといって付き合ってもどうせ体目当てでしょうし…どうしたらいいんですかね」


女子高生は大変だな。男はそんなこと気にせず、自己完結させて話のネタにできるのに。


「だから仕方なく相談してるんです。誠先輩はいらないですが」


「おめー、後で学校の掲示板にその話載っけて炎上させるぞ。覚悟しとけ」


基本いじるよりいじられる側にいる俺でもやる時はやるぞ。


「先輩がその気なら、先輩が今までパソコンに溜めてきたエロ画像拡散しますよ。いいんですね」


東が俺を睨みつけて立ち上がる。


「それどっから見つけた!つーか俺の家のパソコンからどうやってデータ抜き出した!」


俺も立ち上がって応戦する。


「やっぱりあるんですね。私はそうかなーっと思って言っただけだったのに。先輩みたいに彼女の一人もいないと大変ですね」


東は意地悪い笑みを浮かべる。


「まぁまぁ二人とも。人が食事している最中に喧嘩しないでください。僕は荒事を見るのは嫌いです」


その仲裁の仕方はないだろうと思うが、東はやれやれといったように座り、むすーっとした顔でカフェオレをすすり出した。


「こんなふうに友人と後輩との喧嘩を眺めていたことも、歳をとってから青春だったとか思うんでしょうかね」


古谷が微笑する。


「青春ってなんなんだろうな」


おそらく、大概の人は『青春』の二文字について一度はその意味を考えたことがあるはずだ。俺はとうに諦めたが、未練がないといえば嘘になる。

しかし歳をとればこんな些細な日常を思い出し、懐かしむ時が本当に来るのだろうか。

そんなことを考えているとまた渡耒先輩が首を突っ込んでくる。


「彼女作りたいならコミュ障とかって決めつけずに当たって砕けるってのもいいと思うぞ。私が知ってる中では何もせずに告白されるのを待ってればいいのは私だけだ」


「ええ。渡耒先輩の言うとうり積極的なアクションは全てにおいていい結果をもたらすものです。善は急げとも言うぐらいですから」


俺はむしろ果報は寝て待て派である。なんでこの部活にはポジティブリストが多いのだろう。


「真由美先輩って美人ですからファン多いですもんね」


東が目をキラキラと輝かせた。


「私の普段の様子を見たらきっと誰も寄り付かなくなるだろうがな」


今、高笑いをしている先輩は中身さえ知らなければいい人に見えるだろう。中身さえ知らなければな。

弁当の焼きジャケを分解しつつご飯を口に入れる。

何かしらのイベントはフィクションのように向こうから降り掛かってくることはないのだろう。ならば自分から降り掛けに行くのが正解なのかと言われればそんな気もしなくはない。

口だけでは何も動かないなんて小学校卒業する頃にはわかり切っていただろうに。


「気長に待っていたら三年間なんてあっという間だ。しかも三年目は受験勉強で忙しい。思いっきり遊べるのは今のうちだけだからな。後悔しないようにしろよ」


「てことは先輩は後悔してるんですね」


溜息混じりに皮肉を呟く。


「私はもし、そんなことがあったら留年して意地でももう一回やり直す。その時の為に一教科は常に欠点ぎりぎりにしてある」


問題は絶対そこじゃない。


「誠先輩は全教科危ういですし留年も楽にできそうで良かったです」


俺は留年した結果こんな奴と同学年になり、タメ語で話されるようになったらお先真っ暗なので勉強はそれなりにして欠点は避けるようにしようと心に誓った。







さて。昼休みも終盤になり、五時間目は視聴覚室で受けることになっていたので俺は自分のクラスではなくそちらへ向かった。

部屋の中に入るとそこに居たのは五十川さんだった。

やべえ、気まずいとはこのことだろう。密室の中で男女二人、お互い面識はほぼない。何か言わなきゃいけないという使命感。こんな時に限って古谷は教科書を忘れたとかで教室に戻っている。

不審な動きをしている俺に彼女は歩いてきた。


「どこに座ればいいのかわからないんで教えてください」


必然的な会話が生まれる。さあこれをこのあとどう発展させるか。


「えーと。席は来た人から好きなとこに座っていく…」


語尾が定まらん。噛んだ。


「ありがとう」


彼女は短くそう言った。



俺は指定席となっている廊下と反対側の窓側最後列の机の真ん中の席に座り、教科書を置いて一息つく。


「隣座ります」


まさかの五十川さんが隣にきた。改めて見るとかわいいというより美しいと言った方がいいだろう。どこか懐かし女子高生らしい香りが漂う。


「山瀬さん。ですよね」


「そうですよ…」


しばしの沈黙。


「別に俺の隣にわざわざ来なくても他のとこに座ってもいいんですよ。まだ他の人は来てないので座席は余ってますよ」


美少女が隣にいても気まずいし、他のとこに移ってもらわないと俺の煩悩がヒャッハーしそうで怖い。


「山瀬さんは私が隣にいたら嫌なのですか。すいません、ごめんなさい。他のとこに移らせていただきます」


「いやいやいや。そういうことじゃないです。詰めて座ると思ってるのかと思って」


俺は慌てて訂正する。五十川さんはふふっと笑うと座り直した。


「山瀬さんって面白い人なんですね。英語の時間に古谷くんとお話したんですが、山瀬さんについてずっと語られてました」


あいつは何をしてるんだ。まさか根拠もないようなホラ話吹き込んだんじゃあるまいな。


「古谷は頭が狂ってるからあいつの言うことは程々に流した方がいいと思いますよ。実際たまにホントみたいな冗談を言い始めたりしますし。こないだなんか教師に出てない宿題を出したことにさせてましたよ」


「それはすごいですね。その極意を知りたいです」


さて、話題がなくなった。いつも話してるやつとは違ってどんな切り出し方をしたらいいのか、どんな話をしていいのかわからないってのはっけこう辛い。


「そういえば五十川さんってどっから越してきたんですか」


気になったし、これしか思いつかなかったので聞いてみる。


「なんて言えばいいんでしょうか。あなたには少し理解し難いし当てはめるのにふさわしい単語もわかりません。なので遠いところ。と言っておきましょう。」


は?一瞬思考が停止した。理解し難い?なぞなぞか?言語化できないってことは地名じゃないのか。ロジック的な何かか。そもそも冗談で言ってるのか本気なのかもわからない。何故らな彼女の目は本気で言っている目をしている。

ならば俺如きには言いたくないということか。ならば仕方ないので今後触れないようにしよう。

俺がそう自己完結し終わった時、


「でも、いずれわかります。今は私の口から言うべきではありません」


と彼女が言った。


俺はその言葉の意味を考えるのに授業中の全ての時間を使った結果教師の言葉が何一つ頭に入って来なかった。そして美少女が隣に座っているのにも関わらずなんの煩悩も浮かばなかったのはそのせいと言い切っていいだろう。





授業が終わりクラスメイトが教室をあとにしていく中、俺はなんとなく黒板を消している古谷を手伝う。


「自分の出身地って人に言いたくないことってあるのかな」


「それは人によるんじゃないですか。僕は風格のある街で育ちましたけど治安の悪いあまりいいイメージのないところで育った方もいるはずです」


「俺はそんなことが聞きたいんじゃなくてだな。なんて言うか、住んでたところを言葉にできないってどんなことなんだろうか」


黒板消しでチョークの落ちないところを擦りながらため息をついた。


「それは五十川さんの話ですか」


「よくわかったな」


「あなたの隣に五十川さんが座ってたのでそうかと思ったんですよ。仲良くされていて何よりです。くれぐれも退学にならないように二人でお過ごしください」


俺はまだ彼女いない歴イコール年齢だ。現在進行形で記録を更新しているから安心しろ。


「ならよかった。お二人の邪魔にならないようにほかの席に座ってたのですが。杞憂でしたね」


古谷は俺にそっち半分はよろしくお願いしますよ。と言い残すと先に扉へ向かった。

そして去り際に


「僕も同じことを昼休みに言われて考えていたところです。答えがわかったらまた、是非とも教えてください」


と言い残して珍しく俺を待たずに一人で帰っていった。

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