告白
―――
――次の日
俺は昨日の紗緒里の言葉を胸に、放課後篤を屋上に呼び出した。
「何だよ、話って。」
「篤。これから大切な話するからちゃんと聞いてね。」
「お、おう……」
「俺、篤と出逢えて良かった。篤と親友になれて良かった。」
「亜希?」
「だって俺、篤の事好きだもん。この世で一番篤が好き。大好きだよ。」
「な……」
篤は口をぽかんと開けて驚いている様子だった。それはそうだろう。親友だと思ってる相手に告白されてるんだから。
「篤に好きな人がいても俺にとって篤は今までもこれからも親友だから。だから俺の事は気にしないで。いつも通りに接して欲しい。ただ気持ち、言っときたかっただけだから。」
言い終わった瞬間、今まで胸に支えていたものが取れたような、すっきりした気分になった。
「…亜希、ごめん……」
「うん。わかってるよ。だから……」
「悪いけど、俺の方が亜希の事好きだから。」
「…は…?」
何を言われたのかわからない。頭の中がグルグル回っている。篤が、俺を?まさか!
「お前と初めて会ったのは小学校の入学式だったよな。たまたま隣の席になって、亜希の方から声をかけてきたんだ。」
そうだったっけ?あんまり覚えてないや。
「その時俺は幼いながら衝撃を受けたよ。こんなに可愛い子がいるんだって。」
「かっ…可愛いって……」
グルグルしていた頭が今度は恥ずかしさで爆発しそうなんですけど!
何だかいつもと違う雰囲気で熱く語る篤をただ見ている事しかできなかった。
「男だっていうのはすぐにわかったんだけど、男にしとくのは勿体ないくらいだった。もちろんそう思ってるのは俺だけじゃなくて他の奴らも亜希の事を見ていた。でもラッキーな事に亜希は入学式の時に仲良くなった俺の事を友達だと思ってくれてたから、それを利用した。」
「利用?」
「成長するにつれて俺は亜希が好きなんだと気づいた。でも男同士は付き合う事も結婚する事もできないって知って、愕然とした。俺達はどこまでいっても親友という枠から出る事は許されない。だけどそう思っていても諦める事はしたくなかった。」
そこでふっと顔を上げ、微笑む。俺の大好きな篤の笑顔。思わず見とれた。
「いつか亜希に好きな女ができて俺から離れていくなら仕方がないって思った。でもお前はその容姿から男の影ばかりで、どんだけ俺が邪魔してきたか……」
「お、男の影?何の事?」
「お前だって気づいてただろ?クラスの野郎共のイヤらしい視線。」
「あ、うん……」
イヤらしいかどうかはわかんないけど、思い当たる節はある。時々感じる、何かを言いたげな視線。
「俺が一緒にいる時はなるべく牽制してたし、下駄箱に手紙とか入れようものなら全部ビリビリに破いて捨ててた。」
「えぇ!?そんな事してたの?全然気づかなかったよ?」
本当に気づいてなかった。そうだったんだ……
「見損なった?俺、お前の親友って立場を利用して、お前に近づこうとする輩を蹴散らしてたんだぜ。男女問わず。」
「篤……」
「もしかしたら俺よりお前の友達に相応しい奴がいたかも知れないのに、自分勝手な独占欲で亜希を縛ってさ。」
「そんな事……」
「亜希が俺を好きだっていうのも、亜希の側にいたのがたまたま俺ってだけで……」
「違う!!」
「亜希……」
突然大声を上げた俺をビックリした顔で見る篤。悲しい気持ちになりながら言葉を継ぐ。
「守ってくれてた事には感謝してる。この間和田君達が言ってた事も今の話聞いた後なら理解できる。もし怖くて危ない人達が何も知らない呑気な俺に近づいてきたりしたら、弱い俺なんかあっさりどうにかされてしまうと思う。篤がいつも側にいてくれたから今の俺がいるんだって気づいた。」
「…………」
「でもだからと言って、それが篤を好きになった理由じゃないよ。俺には篤だけじゃなくて紗緒里や他の女の子、もちろん他の男子も含めて好きになる可能性はあった。側にいた、たったそれだけの理由で人は人を好きになんてならない。篤が篤だから、俺は好きになった。それじゃあダメ?俺の事信じられない?」
小首を傾げて問いかけると、篤は慌てて首を振った。
「……じゃあ本当に俺の事……」
「もう!さっきからそう言ってるじゃん!」
叫ぶと急に篤が抱きしめてきた。
「ちょっ…と!急に何?」
「好きだよ。」
「……!」
「ずっと好きだった。これからも側にいたい。」
「篤……」
「返事は?」
「……はい。俺も大好き!」
背中に手を回すとさっきよりもきつく抱きしめてくる。
俺は篤の胸の中で目を閉じた。
叶わないと思っていた初恋が思いもかけない形で叶った。それが誰かの尊い想いを越えてまでだったとしても。
世の中の摂理というものを壊してしまうものだとしても。
何を犠牲にしても一緒に生きていきたいと願う。ずっと二人で笑い合っていたい。
その為に俺は何をすればいいのか。自分の心に問いかける。
俺と……私と篤が幸せに暮らしていくには何を捨てて何を得ればいいのか。
答えは出ないかも知れないけれど、この先の人生の道のりの中で一生懸命もがいていきたい。
大好きな人と一緒に……
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