Come back to the Sweet Home
桜の恋 その後
―――
「こら!かっちゃん、起きなさい!」
我が藤堂家の朝は私、藤堂桜のこの大声で始まります。
「ん~~~あと5分……」
「ダーメだってば、もう!今日は朝会議があるんでしょ?さぁ起きた、起きた。」
「へーい……」
無理矢理布団を剥がすと、ようやく観念したようでモゾモゾと起きあがった。
私、旧姓大神桜と藤堂勝利かつとし先生は、私が高校を卒業したのを期に結婚しました!
卒業式の日、先生が自分のところに永久就職すればいいと言ってくれた事が凄く嬉しくて、その場で即答したのだ。
では、結婚までの道のりをご紹介しましょう。
――回想開始
「ダメだ!こんなチャラチャラした奴と一緒になるなんて許さんぞ!」
これは、私の家に二人で挨拶に行った時のお父さんの一言。
「お父さん!そんな言い方っ……仮にも学校の先生なんだよ?」
「先生ならわたしが反対している理由は、おわかりでしょう?」
「……はい、わかっています。」
「先生……」
お父さんの鋭い視線を浴びたまま正座して動かない先生を、私は心配げに見つめた。
反対されるだろうなって事はわかっていた。厳しい言葉を投げられるのも覚悟していた。
うちの親、特に父親は厳格で、一人娘の私を甘やかす事なく育ててくれた。勉強も運動も一切手を抜かずに頑張れといつも言って聞かされていた。だから私はその期待に応えようと一生懸命取り組んだ。
スポーツは運動神経があまり良くなかったから早々に諦め、途中からは勉強に全力を注いだ。
テストで良い点を取るのは当たり前。最低でも95点は取れとプレッシャーをかけられた。それでも負けず嫌いな私は、父の理想に食いついて生きてきた。
グレる事もなく、男に現をぬかす事もなく、真面目に良い子を演じてきた。もちろんそれが苦痛だった訳ではない。私にとっては当たり前の事だったのだ。
だけど先生との事に関しては、例え親が反対しても曲げられない。絶対に離れたくなんかない。
もし…もしも説得できないようなら、駆け落ちも辞さない覚悟を決めていた。
「教え子に手を出すなんて大人として教師として、間違っている事は重々承知しています。桜さんはまだ18歳で、何もかもがこれからです。何も今将来を決めなくても、と思われるのも仕方のない事です。それでも!」
先生はここで私を見る。そしてにっこりと微笑んだ。
「俺……あ、いや僕が桜さんを好きな気持ちは本物です。彼女はまだ幼さが残る、僕から見たらまだまだ子どもみたいな所があるけど、その中に凛とした強さも兼ね備えた立派な女性です。僕には彼女が必要なんです。一生大切にしていきますので、どうかよろしくお願いします!」
先生が頭を下げる。私は呆然としてしまった。
こんなクサい台詞、あの藤堂先生の口から出るなんて……
「藤堂さん……でしたっけ?」
「は、はい!」
「気に入った!娘との結婚を許す。ただし!泣かせたらどうなるかわからんがな。」
「あ…ありがとうございます!」
「ありがとう、お父さん。」
「良かったわね、桜。」
「ありがとう、お母さん。」
そして数日後、近くの古びた教会で親族とごく少数の友達だけ集めた結婚式を挙げた。
それには千尋と高崎先生も来てくれて大騒ぎ。
「桜、似合ってるよ。すっごい可愛い~♪」
「本当?ありがとう、千尋!」
「良かったですね、大神さん。すごく綺麗ですよ。」
「高崎先生も頑張ってね。色々と(笑)」
「おい、桜!準備できたんなら早くこっち来い。もう皆待ってるぞ!」
「はーい!じゃ行ってくるね。」
「桜!ブーケよろしく。」
「わかってるって。」
ウェディングドレスの裾を持ち上げながら、やっとの思いで先生の元に着く。
「先生、似合う?」
これからブーケトスをするのだがその前にずっと聞きたかった事を聞いてみた。式の時は余計なおしゃべりはできなかったから。
「うん……似合うけど……」
だけど先生は私を見て考え込んじゃった。どういう意味だろう……場合によっちゃ血を見るかもね……
「先生?」
「…やっぱりその『先生』っていうの止めないか?一応夫婦になったんだし…その……」
「あ、そっか。もしかしてそれで悩んでたの?」
「まーな。それより何て呼びたい?」
「何て呼ぼうか……」
「俺は…勝利さん、かっしー、勝利、あなた……」
「かっちゃん!」
「あ"?」
「勝利だからかっちゃん。そうだ、かっちゃんって呼ぼう!決まり!」
「え?ちょっと待っ…!…まぁいっか。」
そしてその後ブーケトスをして、皆が投げる花吹雪の中をかっちゃんと手を繋いで歩いた。
「みんなーありがとう!」
私の大声が良く晴れた大空に響き渡った。
ちなみに投げたブーケは千尋を通り越して、高崎先生に渡っちゃったけど……
「ありゃ~~~先生にいっちゃった。ま、いっか。ね?かっちゃん♪」
――回想終了
「あの時は幸せだったなぁ…。まったくこの人は結婚してみりゃあ手はかかるし、家事の手伝いはしてくれないしで大変。まぁ、大体予想はしてたけどさ……」
「ん?何か言ったか?」
「いえ、何も。」
「それよりお前も遅れるぞ。」
「え?あ、ヤバい!」
急いで朝ご飯を食べて二人同時に家を出る。
申し遅れましたが私は、結婚した後死にもの狂いで就職活動をした結果、ある会社に入る事ができました。
その時悟った事がありまして、それは成績の良し悪しと会社に入るという事が必ずしも繋がらないっていう事。
どこの会社も私の内申書を見てどうして大学に進学しないのかという疑問を持つらしく、話もろくに聞かないで落とされる。
まぁ、別に大学に行こうとは思ってなかったし、かと言ってあの時は頭が先生の事ばかりだったから就職活動も適当だった。でもその結果結婚できたし、今はこうして頑張って働いている。
結果オーライ!というやつだ。
仕事は大変だけど皆さん良い人達だし、苛めてくる先輩とかもいないし毎日が楽しい。
「じゃ、行ってくる。仕事頑張れよ!」
「そっちもね。」
家を出てそれぞれ反対方向に別れると、私はしばらく歩いた所にあるビルの中に入る。
「あ、玲子さん。おはようございます。」
「あら、桜ちゃん。おはよう。」
ちょうど前にいた先輩の安藤玲子さんに声をかける。
玲子さんは、入社したての頃(といってもまだ半年くらいしか経ってないけど)すごくお世話になって、今でも親切にしてくれる良い人。
「おう!桜。今日も朝から可愛いね♪」
「出た……もう毎朝毎朝いい加減にしたら?こんな事やってるとモテないよ。」
「何て事言うんだ!僕はいつでもモテモテさ。」
「放っとこ……」
私は深いため息をついた。
この軽いナンパ野郎は安藤竜也。私の同僚で玲子さんの弟。全然似ても似つかない。
どうしてこいつと玲子さんが姉弟なのよ!と怒ってみたりする……
「さぁ、早く行きましょう!仕事仕事。」
私は二人を置いてさっさと仕事場に向かった。
「姉貴、俺今回はマジだぜ。絶対落としてやるからな!」
「あら、無理よ。桜ちゃん、ダーリンいるから。」
「え"?うそ……」
「知らなかったの?」
「全然知らなかった……いや!ここで諦めたら男が廃る!頑張るぞ、エイエイオー!!」
「…やめといた方がいいんじゃない?」
「いいや!やる!」
「勝手にしなさい。」
私の知らない所で、私とかっちゃんのラブラブな新婚生活が崩れていこうとしていた……
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