第4話 セラス
あれからいくつかの問答を経て、ドッキリの類では無いことが分かった。分かってしまった。
太陽と月は一つづつだし、1日24時間1年365日は何故か変わらないけれど、ここには俺の故郷は無い。血縁もいなければ戸籍もない。無い無い尽くしのヤバイ状況だ。
その事に気付いた時、俺は言いようのない恐怖を覚えた。今自分が殺されても、誰も気づかない。気付いたとしても、いない人間が死んだところで罪になるのだろうか。帝国ということは封建社会だろう。目に前にいるのはメイド。権力者に雇われている者だ。それに気付いてしまったのだ。
目の前のメイドは恐怖で固くなった俺に気付くと、
「大丈夫です。貴方はお嬢様の客人としてここに居ます。この屋敷にいる間は、誰も貴方を傷つけることはありません。」
俺を抱きしめて、そう言った。
限定的にしか命の保証が無いことに恐怖した。
限定的にでも命の保証があることに安堵した。
身体の強張りがほぐれ、俺が豊かな胸の感触を楽しめるようになった頃、身体が離れた。
「もう大丈夫そうですね…。この後、少ししたら夕食です。時間になったら呼びますので身なりを整えてお待ちください。そちらのクローゼットに服は入っています。……それから、私の名前はセラスです。」
耳を赤く染めたメイドさんは事務的にそう告げると退室して行った。
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