君を思えば死にともな

狐島

新天地

 寝坊はよくない。これは人間が己の倫理観に基づいて判断できることだ。寝坊をすると自分が罰を食らう。そして僕は今日寝坊した。

 (いやね、これはしょうがないって。だって昨日の夜中まで荷解きしてたんだよ。しかも今日から授業に出る必要はないときた。そりゃ朝起きないわ。昼まで寝るわ)

 とはいえ罪悪感もある。正午を過ぎたころに学校から連絡があった。入学の手続きは母さんがやってくれていたようだったが、連絡の内容は明日以降の授業に使う道具や連絡事項を取りに来てほしいとのこと。電話をくれた先生も俺の眠たそうな声で察してくれたようで、ありがたいことに、6時過ぎまでに取りに来てくれればいいそうで、最後に「起しちゃってごめんね」なんて言われてしまった。

 (いきなり恥ずかしいところを見せてしまった。いや聞かれた?もうどうだっていいや)

 とにかく起きて着替えをしよう。男子高生に姿見なんて必要ないと思っていたが、今日に関しては感謝するしかない。ピシッとした服装をしていかなければまた恥ずかしい姿をさらすことになる。初日から二回も笑われるなんて御免だ。

 たくさん積まれた段ボールの中から、「学校」とガムテープにマッキーで書かれたものを探す。前よりも広い家に引っ越したおかげで段ボールを乱雑に置いても足の踏み場があるのは助かる。

しわがつかないようにとわざわざハンガーボックスなんてものに入れてくれていたようで、段ボール漁りの前に見つけることができた。さっきの電話だと制服は前の学校のものでいいらしい。高校二年の夏前に新しい制服を買わせるなんて学校側もかわいそうだという判断だそうだ。

 今から出れば4時前には学校につくはずだ。いや何時まで寝てたんだって話よ。両親ともに俺だけを先に新居へと荷物と一緒に送り、父は出張が決まり、母は実家からの呼び出しと前のご近所さんたちと温泉旅行だそうだ。つまり家には俺一人なので誰も起こしてはくれない。唯一、母から「頑張ってね♡」なんて昭和みたいなメッセージを送られてきていた。なんて無責任な両親なんだ。

 1年間でこの制服にもなれた気がするが、やはり少し大きい。高校に入れば身長なんていっきに伸びると思っていたが、現実は残酷だった。気にしてないと言えばウソになるけど、制服と一緒でもう慣れた気がする。

 (いやまだ高校は2年あるし、、まだ伸びる余地はある、はず、、遺伝なんて説は信じないからな)

 春の終わり特有の心地よい風に緑づいた若葉は舞い上がり向かいの屋根を超えていった。

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