吉田式クトゥルフ神話群

吉田君

星を見た者

「やあ、よく来てくれたね。こんな所で立ち話もあれだから中に入りなよ。


こっちだよ。そこのソファに座るといい。


飲み物は・・・コーヒー?それとも紅茶?そうかわかったよ。今用意するね。さあ、どうぞ。


さてここに来たということは私の話を聞きに来たんだね。


ふふふ、いや、誰かに話せるのが嬉しくてね。


どこから話そうか。私の生い立ちから話してもいいのだけどそれだと君の時間を取りすぎてしまうね。


そうだな・・・私が初めて教団の人間と接触した時の話から始めようか。


当時、と言っても今もだが私は天文学者だった。


私が小さな居酒屋で酒を飲んでいる時私は彼にあった。


あったといってもカウンターの空席を一つ挟んだ隣に座ったわけだが。


彼は小汚い服を纏いその店で一番安く、質の悪い酒を注文していたよ。初めはみすぼらしい男だと思ったさ。


私は彼を気にも止めなかったけど彼が私に話しかけてきた。


普段なら彼の話に耳も貸さなかっただろうがその時は酒がはいっていたから私は彼の話を聞くことにしたんだ。


彼を見た目で大した男ではないだろうと思ったが、彼は非常に優秀な男だった。


今思い出してもね。すごいかった。そうすごかったんだよ。ふふふ。


専門的な話は省くけど私たちは宇宙の話で盛り上がったんだ。


私は彼にどこでそれほどの知識を手に入れたか聞くと、彼はいきなり辺りを見回して急に小声で話始めたんだ。


そこで私は初めて教団の話を聞いた。教団の持つ『ナグドの書』に全て書いてあったというんだ。


どうやらそれは教典らしいが私はなぜ教典にその様な知識が載っているか分からなかった。


同時にそれを読みたいという衝動にも駆られたんだよ。すぐにそれを彼に伝えたら、彼もぜひ来てくれと歓迎してくれたよ。


それから次の日に会う予定を作ってね私は家に帰ったんだ。


私はまた彼に会った。といっても約束していたのだから当たり前なのだが。


私が彼の案内で連れていかれたのは古い雑居ビルの二階だった。


中は薄暗く不思議なお香の香りが漂っていた。だけどねその時確かにお香の香りにまぎれた血の臭いをかんじたんだよ。


緑色のローブを着た人が三人いたけどフードを深く被っていたので顔は見えなかった。


すぐに奥からもう一人出て来てね、その人が司祭らしい。


その人に私はもう一つの部屋に呼ばれた。そこで私は二、三質問された。もちろん宇宙のことだ。


私の答えに満足したのか私はついに『ナグドの書』を閲覧することを許されたよ。


ふふ、私はその時初めて知ったんだよ。とても恐ろしかった。でも恐れるだけじゃなくとても感動したよ。


おや、何を言ってるか分からなさそうな顔をしているね。すまない話を急ぎすぎたようだね。


あの恐るべき『ナグトの書』にはね宇宙とそれに住まう恐るべき者たち、それとの接触の方法が記されていたんだよ。


もちろん最初から信じたわけでは無いがね、私は一つ頼まれごとをされたんだ。


『ナグドの書』に書かれていた天体望遠鏡を作って欲しいと。


設計図はところどころ破けていて完璧なものではなかった。だから私の知識を貸して欲しいとのことだった。


私はすっかりあの書に感動していたからね二つ返事で引き受けたよ。


なに、それは完成したのかだって。ふふふ、そんなに焦らなくてもいいじゃないか。


まあ、君も気付いているだろうが完成したよ。そう、私が話を始めてから君が気にしているその布の下そこにそれはあるよ。


もし、君が望むならそれをそのまま君に差し上げてもいいよ。私や教団にはもう必要ない物だからね。ふふふ。


それを作るのは大変だったけど辛くはなかったよ。私はその時すべての学問の最先端にいる気持ちさえあったからね。


私は仕事を一週間ほど休みをとったんだ。起きている時間のほとんどを天体望遠鏡作りにあてるつもりだったのさ。


なぜだろうね。あの時の私は恐らく地球上の何よりも賢かったとおもうよ。ふふ、自惚れに聞こえるかい。でもね本当にそう思ったのさ。


三日でほとんど完成したんだけどね、しかしあと一個パーツが足りず完成に至らなかったんだ。


一か所だけ天体望遠鏡の最も中心となる場所にぽっかりと正二十面体の穴が開いていたんだ。


一体どんなものを入れればいいのか皆目見当もつかなかったよ。私は久しぶりに家から出て教団のある雑居ビルに行ったんだ。


私は司祭にあって天体望遠鏡作りの進捗を告げたんだ。


そしたらね。なんと司祭には心当たりがあったらしくてね。教団創設以来から受け継がれていた宝石があって、それは正二十面体だったのさ。


その宝石を最後にあてはめたらまるで最初からそこにあったかのようにしっかりとはまったんだ。


天体望遠鏡を完成させ私たちは非常に喜んだ。私はついにあの書に書いてあったことが真実か確かめられるんだ。とね。


ふふふ。その夜私たちはある山まで行って天体望遠鏡を使ったんだ。


ふふ。イア、クト、ムグア。


『ナグドの書』に書かれていた者。大罪を犯した許されざる者。カーナグド。


偉大なるクトゥルフや生ける炎クトゥグァ達に宣戦し星を奪おうとした。


続く戦争の中カーナグドは恐るべきヨグ=ソトースにまで宣戦し敗北をし地球近傍小惑星の一つに幽閉された。


イア、クト、ムグア、カー。


私は天体望遠鏡を使い見たそうカーナグドをね。君にも見ることはできるだろう。それを使えばね。


ふふふ。だが、最も恐るべきはカーナグドではない。


ところで話は変わるが君はブラックホールを知っているかい。


そう、その通り。光でさえ逃れることのできない超質量の天体だ。


私はね『ナグドの書』を調べるうちにわかったことがあってね。あの天体望遠鏡を使えばブラックホールでさえ見ることができるんだ。


物を見るということは物体に当たった光が角膜に入ることで脳がそれを確認することだ。


しかしブラックホールは光でさえ逃げ出すことは出来ない。だから見るのは不可能だ。見れるのはブラックホールの影だけだ。と言われているがね実は違うんだ。


多くの人間には知り得ないことだけどね、ある種の光はある条件下で光の速度を超えるんだ。


ふふふ、光が光の速度を超えるとはおかしな話に聞こえるかもしれないがねこれは事実なんだよ。


光速を超えた光を見ることができる鍵こそがあの宝石だったんだ。


ふふふ。最も恐ろしきもの、そして最も神々しいものを私は見た。


イア、クト、ムグア、カー、ズカ。


ブラックホールの中心でうねり、泡立ち、絶えず形を変えるものを。


ブラックホールの主。星を喰う者。大罪を犯した者と卑しき者の父。ズーソグド。


恐るべきズーソグトは知性なくただ宇宙をさまよい近くにある天体を喰らい莫大な時間を生きていた。


ふふふふ。私は生き延びた。いや、私だけが生き延びたんだ。


一緒にあれを見た私以外の人間。司祭もみすぼらしい彼もその他の教団の信者さえあまりの恐ろしさに死を選んだ!

そう、奴らはあの偉大なる神ズーソグトではなく死というものを選んだんだ!

愚かな奴らだ!ふふふ。私は奴らが死んだ時確信したよ私が新たな司祭に選ばれたんだと!

全てを語るには時間が足りないね。ふふふ。


イア、クト、ムグア、カー、ズカ、ズーソグト!恐ろしく強大な力を持った親子!

私は今やこの世で最も偉大な生き物に仕える司祭だ!

ふふふ。おや、震えているのかい?私が気の狂った男に見えるかい?

おや?カップが空になっているね、おかわりを持ってくるよ。同じのでいいかい?

持ってきたよ。おや?どこに行くのかい?私が怖くなったんだね。だが逃がしはしないよ。


外を見たまえ、もういい時間だ。星空が綺麗だろ?

手荒な真似はしたくなかったけどしょうがない。


ふふ。」



「起きたかい?ふふふ、いい場所だろう星がよく見える。


さあ、この天体望遠鏡を覗くんだ。どうだい見えるかい?

イア、クト、ムグア、カー、ズカ、ズーソグト!

君も私のいるところへ来るんだ。君には資格がある!

ふふふ、ようこそ私いるところへ!歓迎しよう!」

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