人間やめて、魔物として生きていきます!

@torashirozzz

第1話

周りには百を超える魔物の軍勢。

風が吹き荒れ、薄暗い曇り空の中、荒野に佇む魔物達の真っ赤な眼光だけがはっきりと分かる。

ゴブリンやゴーレムと敵の姿は違えど、奴らの行動は明確に統率された動きをしていた。

個を発すること無く、数体の集団で襲いかかる。

集団がやられたら、次の集団が来る。

全く休む暇もない。


相対するのは線の細い一人の少年。

名は橘零也たちばなれいや

黒色の戦闘服に、両手には血に染まった日本刀。

傷だらけの身体に、呼吸が絶え間なく続いている。

前傾で剣を構え、敵だけを見ていた。


(……ここで死ぬかもしれないな)


味方はいない。戦っているのは俺一人だけだ。

今逃げれば魔物達は街を襲う。

そうなれば何の罪もない一般人まで巻き込まれる結果に繋がる。

それだけは絶対に避けなければいない事だ。


「うおおおおッ!!!」


掛け声と共に鋼の剣を薙ぎ払う。

剣が薄く青い光を帯び、オークが持つ木の棍棒もろとも胴体を真っ二つに切り裂く。


グシャリッー。


音が聞こえたと時には剣の勢いそのままに膝を曲げつつ一回転。

刃が正面にきたときに振りかぶり、跳躍。

手をできる限り強く握りに締め、振り下ろした。


「橘流神速剣術──斬刃波乱撃っ!!」


正面にいたリザードマンの肩から足の付け根まで一直線に切断。


断末魔を聞く暇なく、着地と同時に目を後ろに流す。

土埃を立てながら槍を片手にこちらに迫る、別のリザードマンを見定める。

刀を剣帯に戻し、素早く立ち上がると、地面に散乱する死体を掴み体の後ろに隠れつつ持ち上げる。

シュバッ、高速で繰り出された槍の三連撃を死体の鉄鎧で受け止める。


「うりャッ!」


一瞬ついた隙に死体を力任せにぶん投げる。

体を仰け反りながら横に避ける所を見て、姿勢を低くしながら敵に接近。

左足に強烈な蹴りを入れ、リザードマンは姿勢を崩した。

左の剣帯から短刀を抜き、敵の喉笛に突き刺す。


(我が名を受け、実現し発言せよ

──血液魔法。流血破裂ブラッティバースト


短剣を回すと、異常な程の血しぶきが空中に飛散した。

己に跳ね返る血を気にせず、脈の振動が止まるのを確かめ、短刀を抜いた。

敵が待ってくれなる訳もなく、次々と最後に武装した魔物達がわらわらと襲いかかってくる。


「次から次へと、全く切りがねえ。それなら──」


敵達を限界まで引きつけ、後ろ向きに大きく跳躍。

オークの頭を踏んづけ、再度さらに高く跳ぶ。

体を逆さまにし、手を刀に当たる。


「橘流神速剣術──円ノ月影!」


抜刀から、神速の広範囲斬撃攻撃。

円状に広がった刃の通り道を誰も防ぐ事が出来ず、八体の魔物の首が宙を舞った。

膝を曲げ着地。

直ぐ様に襲ってくる敵はいない。

広範囲の技の効果があったようで、魔物達は躊躇しているように見える。


「どうした! 来いよ、相手になってやる」


立ち上がり、敵に向かって叫ぶ。


その時だった。


身体が急に止まった。

いくら動かしても、意思に抗うようにピクリと、微動だにしない。

まるで金縛りのようだ。

思考を巡らせると、答えはすぐに分かった。

戦場を見て、耳をすませる。

獣達の雄叫びや金属の擦れる音で分かりづらくはあるが、確かに分かった。


魔法詠唱音。


動けないのはこいつの魔法のせいだ。

魔物達の奥、一際邪悪なオーラを感じる敵。

牛の頭蓋骨を被り、ボロボロの布切れを纏っている。おそらく敵の司令塔。


最初こそ手を出さなかったものの、なかなか死なない俺に痺れを切らしたのだろう。

俺の視線に気づいたのか、奴は一瞬仮面の下に隠れる顔を緩ませた。

その瞬間魔法は解けた。

身体も動かせたが、しかし時は既に遅かった。


グシャリ。

グシャグシャグシャグシャグシャグシャグシャグシャグシャグシャグシャ。


一本の剣が腹に突き刺さった。

続け様に鋼色の刃物が間なく突き刺さっていく。

抵抗などできない。

声も出せずに、血を吐きながら俺は無様に地面に倒れこんだ。


死を自覚した。


瞼が重く、四肢は動かない。

腹部から広がった血が円状にゆっくりと広がっていくのが認識できた。

息も次第に少なくなっていき、心臓の音が弱くなっていくのも分かる。

霞む世界をただ眺め、見えなくなったと同時に俺はこの世界をさった。


──『人間』である俺はこの時死んだ。

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