第12話 ウェルダネスタウンへ

翌日、俺は出発の準備をしていた。まあ準備って言っても、これはゲームだから『アイテム』って軽く唱えれば目の前にアイテム欄が表示されて、そこの右端にある『整理する』ってところを指でタッチすれば完了なんだが。

「昨日は泊めてくれてありがとうございました!」

俺はサリア父に一言礼を言った。

「おう。あ、そういや昨日話したお前の防具の話なんだが、採寸してなかったから飲み仲間に頼みようがなかった…。とびきり良い装備を作ってやるって約束したのにすまんな…。だから防具は無理だが、そこに俺の試作品の武器がたくさんある。好きなだけ持って行っていいぞ。」

「そうだったんですね。夕飯もご馳走になったし泊めてくれたし、全然大丈夫ですよ!じゃあ、ありがたくいただきますね!」

見ると大きな木製の籠の中に5、6本の剣や斧が入っていた。俺はその中から半分くらい持ってアイテム欄に入れた。

「ありがとうございます。大切に使います。」

「おう。えっと…これがウェルダネスタウンへの地図だ。まぁ少しばかり遠いからこの街から出てる馬車に乗るといい。その代金も払ってやるさ。ほらよ。」

サリア父はそう言って俺に札束5枚を渡した。

「余ったら食費にでも使ってくれ。」

「何から何までありがとうございます!」

するとサリアが声をかけてきた。

「賢治君!私出発の準備できたよ!」

「俺も今完了したところだ!じゃあ、行くか!」

「そうしよう!」

サリア父は玄関まで見送ってくれた。見た目は怖いけど、ほんと優しい人だなぁ。

こうして俺とサリアは家を後にしサリアの案内の元、街の中央の馬車出発口へ向かった。

出発口に着くとさっき貰った札束を一枚、御者に手渡してウェルダネスタウン行きの馬車に乗った。割と広いしっかりとした馬車だった。屋根付きの座席がたくさんあって、それを4匹の馬が引っ張っている。

俺とサリアは後ろの方の席に座った。

「結構広いな。バスみてえだ。」

「ばす…?果物を入れるバスケットのこと?」

「ん?いや、違う違うw」

そっかこの世界にはバスとか無いんだもんな…だからこの馬車ってわけだが。サリアにバス見せたら、きっと驚くだろうな…。

席に座りながら2人でしばらくたわいもない会話をしていると、口喧嘩をしている男女が乗ってきた。

「…だからあたしの方が強いって!」

「いいや!僕の装備スキルの方が上さ!」

何を言い合ってるんだろうか。彼らは俺たちの前の座席に座ったので話しかけてみた。

「あの〜。喧嘩中失礼しますが、何を言い合ってるんですか?」

彼らの目線が瞬時に俺たちに向けられた。

「何をって、あたしとコイツでどっちが強いか言い合ってるのよ!…って、アンタ誰?」

「えっと…俺は山本賢治って言います!んで、こっちはサリア。」

サリアはきょとんとしている。

「へ〜。『ヤマモト』って何か不思議な響き。サリアちゃん、だっけ?アンタ可愛いじゃない。」

「え、いや、そんなことないですよ笑笑」

サリアは首を振った。

すると女性の隣の男も話しかけてきた。

「僕もサリアちゃん可愛いと思う!黒髪も綺麗だし!」

サリアは顔を少し赤らめた。俺も改めて、可愛いと思うぞって言おうとしたが追い討ちになりそうだと思ってやめた。

ここで俺はレイラという女性に問うた。

「この馬車に乗ってきたって事は2人もウェルダネスタウンに行くんですよね?どんな用事があるんですか?」

「初対面なのに突っ込んだ質問してくるわね…。あたし達は2人でドラゴングランプリに出場するのよ!」

「僕たちは去年も2人で出場したんだけど、全然ダメでね…。今年もまたリベンジしに行くんだよ。」

「ドラゴングランプリ!俺たちも出るんすよ!」

俺の言葉を聞いた2人は心配そうな顔を浮かべた。

「アンタたち正気?ドラゴングランプリってたくさんのモンスター達を倒さなきゃいけないし大変なのよ?それなのにアンタまともな装備すら身につけてないじゃない…。」

「武器ならサリアの父さんが作った試作品をいくつか持ってますよ。サリアの家、武器屋なんです。」

「でも僕も心配だよ。防具無しでしかもか弱い女の子と2人でだなんて…」

数秒の沈黙の後、レイラが提案を投げかけた。

「じゃあさ!あたし達2人とチーム組もうよ!4人でなら頼もしいじゃない!」

「いいね!僕もそれはいい考えだと思う!どうかな賢治君?」

俺は迷いなく喜んでOKを出した。

「いいですねえ!組みましょう!!サリアは、どう思う?」

「私も賛成!2人よりも4人だよ!」

「じゃあ、決まりだな!」

こうして、ひょんなことからレイラ、クルトの2人と出会い、チームを組むことになったのだった。


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