第35話・紙とペンとカードゲーム KAC4
放課後。
僕と大橋さんは図書管理室にいた。
大橋さんはお話が大好きな可愛い女の子なんだけど、今日は黙々と厚紙を切っている。
「よし。できた♪」
「なにが?」
大橋さんは楽しそうに紙の束を突き出した。
「ジャジャーン♪ パンツゲームです!」
「パンツゲーム? なにそれ?」
「これはね。篠塚君が三度の飯より女子のパンツが好きっていうことを考慮して作ったゲームなんだ」
この子はまた誤情報を前提に訳の分からないゲームを作ってしまう。
「……どんなゲームなの?」
「ルールは簡単だよ。互いに四枚のカードを持つの。種類は三種類。
パンツ。篠塚君。そしてゴキブリ」
なんて個性的な面々なんだ。
人と布と虫のカードゲームなんて今までこの世にあっただろうか?
「それでね。先攻の人が裏のままカードを出すの。そして後攻が表で出す。そしてチェックして、互いに了承したらバトルの掛け声で先攻がカードを裏返す。
篠塚君とパンツを組み合わせたら先攻の勝ち。
篠塚君とゴキブリを組み合わせたら先攻の負け。
ゴキブリとパンツ、またはゴキブリ同士、パンツ同士なら引き分け。
篠塚君と篠塚君なら篠塚君の負け。
どう? フェアでしょ?」
「どこが? なんか僕だけ負け筋が多いんだけど!?」
「だってわたしが頑張って作ってる時、篠塚君は手伝ってくれなかったし」
なに作ってるか知らなかったから手伝いようがないよ。
「それは謝るからさ……」
「しょうがないなー。じゃあ二人共なら篠塚君引き分けね? それと一ゲームに一度カードチェンジができるから。チェックで先攻がカードを交換するかを選んでから、後攻も変えられるんだ。三勝した方が勝ちね。じゃあスタート。先攻はもらうね」
そう言って大橋さんはカードを配った。
四枚の内訳はパンツが一枚。ボクが二枚。ゴキブリが一枚だ。
大橋さんはカードを一枚裏で出した。
僕は考える。
あれがボクならパンツを出したら負けで、ゴキブリを出したら勝ちか。
「えっと、とりあえずゴキブリで」
「じゃあ次にチェックね。わたしはノーチェンジ。篠塚君は?」
「なら僕も換えない」
「決まりだね。バトル!」
そう言って大橋さんはカードをひっくり返した。
ゴキブリだから引き分けだ。
大橋さんは自慢げに笑う。
「これでわたしがかなり有利になったよ。じゃあ次はこれね」
また一枚伏せる。
僕は考えてからボクのカードを出した。
僕らが持ってるのはパンツ一枚とボク二枚。
ならあとは全部引き分けに持っていくしかない。
もし大橋さんがパンツを出してたら僕はパンツを選ばないと負け。
僕がパンツを出して大橋さんがボクを出してても負け。
どっちを出しても負ける可能性がある。
「じゃあ僕はボクを出すよ」
「はい。チェックね。わたしはカードチェンジするよ。篠塚君は?」
カードチェンジってことは大橋さんもボクを出してたのかな?
それをパンツに換えてたら、僕は負けだ。
「えっと、なら僕も。ボクからパンツに換える」
すると大橋さんはふふんと笑った。
「決まり。バトル! わたしが選んだのは篠塚君! パンツと合わせたからわたしの勝ちだね!」
負けてしまった。
どうやら大橋さんはカードチェンジすることで僕からパンツを引き出したらしい。
なんか意外と読み合いの要素があるな。
先攻側は後出しでカードを変えられるから有利だけど、その換えたカードに対して後攻は交換ができる。
でも今みたいにあえて交換して相手に引き出させるって手もある。
パンツゲームとかいうふざけた名前なのに意外と奥が深い。
次は僕の先攻だ。
僕はボクを出した。
これで大橋さんがパンツを出せば勝ちだ。
「ならわたしはパンツを出すね」
大橋さんがカードを提出する。
やった。
僕の勝ちだ。
「カードチェンジは先攻からだよ。どうする?」
「えっと。僕は換えないよ」
このままいけば勝ちだ。
「ふ~ん。じゃ、わたしはゴキブリに換ーえよ♪」
「え?」
「バトル!」
負けた。
二連敗だ。
大橋さんは面白そうに笑った。
「あはは♪ 篠塚君って分かりやすーい」
「むむむ……」
これで三敗にリーチだ。
大橋さんは楽しそうにカードを持った。
「あ。分かってると思うけど負けたら罰ゲームだからね?」
「ええ!? 分かってないよ!」
「でも今はもう分かってるでしょ? 罰ゲームは相手の言うことを何でも一つ聞くだから」
「な、なにさせる気なの……?」
「パンツゲームなんだからパンツにまつわることだよ」
嫌な予感しかしない。
「大丈夫。命に関わる事態はなるべく回避する方向だから」
「なるべくとか方向とか曖昧な表現はやめてよ!」
と言って僕はハッとした。
つまり僕が勝てば大橋さんに一つ命令できるわけだ。
それもパンツにまつわることで。
例えば、嫌な顔をしながらパンツを見せてくれたり…………。
いかん。
大橋さんにそんなことさせるなんて間違ってる。
間違ってはいるけど、候補としては残しておこう。
なぜかびっくりするほどやる気が出た。
そして崖っぷちの三戦目。
先攻の大橋さんはカードを伏せた。
僕は考える。
大橋さんはなんのカードを出しただろう?
確率的に考えれば二分の一でボクだ。
ならゴキブリを出せば勝ち。
でももしゴキブリを同じカードかパンツで消されたら一気に不利だ。
そこまで考え、僕はハッとした。
さっきの二戦とも、大橋さんは積極的にゴキブリを出している。
偶然か?
いや、違う。
そうか!
大橋さんはゴキブリが苦手だからカードを持っていたくないんだ。
なら出したカードはゴキブリだ!
「僕はボクを出すよ」
カードを提出すると大橋さんの表情が曇る。
「じゃあチェックね。わたしはカードを交換する」
ゴキブリからカードチェンジってことはボクかパンツだ。
勝ちにくるならパンツだけど、カードチェンジを考えれば引き分けに持ってくる可能性が高い。
なら、そのカードはボクだ!
「なら僕も交換するよ。換えるのはゴキブリだ! バトル!」
「くう……。わたしの、負け……」
大橋さんは悔しそうにカードをオープンし、負けを認めた。
勝った。
大橋さんに勝った。
なんだろうこの高揚感は!
もしかして大橋さんに嫌そうな顔をさせながらパンツを見せてもらうことも……。
いやだめだ。
やっぱりやりすぎだ。
でも、次に勝ったら考えよう。
邪念にまみれた僕は波に乗り、次のゲームも勝利しちゃった。
これで二勝二敗。
次勝てば大橋さんになんでも一つ命令できる。
第五ゲーム。
先攻は大橋さん。
大橋さんはいつものようにゴキブリを出した。
僕はそこにボクを重ね、大橋さんがカードチェンジ。
気付いたけど、大橋さんはボクのカードを右に寄せる癖があるみたいだ。
そしてカードは右から出てきた。
意表を突いてカードチェンジさせる作戦だろうけど、そうはいかない。
しかし念の為に僕はボクをキープする。
「え? カードチェンジしないの?」
「うん。取っておくよ」
大橋さんは当てが外れたとカードをオープンした。
結果は引き分け。
これで僕らのカードは互いにパンツ。ゴキブリ。ボクの一枚ずつになった。
だけど僕はカードチェンジができ、大橋さんの癖を知っている。
次のターン、大橋さんは真ん中のカードを出した。
右じゃないってことはボクじゃない。
つまりパンツかゴキブリだ。
おそらく嫌いなゴキブリだろう。
なら、僕が選ぶのパンツだ!
「僕はパンツを選ぶよ。そしてカードチェンジはしない。バトル!」
「むぅ……」
結果は読み通り、大橋さんはゴキブリを選んでいた。
これで僕の残りカードはゴキブリとボク。
大橋さんはパンツとボクだ。
大橋さんは僕が出すボクにパンツを合わせないと勝てない。
確率は二分の一。
そして大橋さんは右側のカードを選んだ。
癖通りならボクのはずだ。
勝った!
「僕はゴキブリを召喚! カードチェンジはしない!」
宣言を聞いて大橋さんの表情が曇る。
大橋さんは手を振るわしながら不安そうに尋ねた。
「い、一応聞いておくけど、篠塚君はわたしになにを命令する気なの?」
「それは……、まあ、後々決めるよ」
「もしかして最近買ったラノベに影響されて『女の子に嫌そうな顔をしながらおパンツ見せてもらいたい』とか言わないよね?」
な、なんで買ったラノベの内容がバレてるんだ?
バレないようにネット通販で買ったのに。
「お昼休みにスマホを机の中に入れっぱなしにしてトイレに行くのが悪いんだよ」
心を読まれてる――
ていうかプライバシーの侵害だよ!
僕が汗だくになりながらも沈黙を突き通していると、大橋さんは青ざめた。
「やっぱりそうする気なんだ……。ううぅ……。篠塚君のヘンタイ! そうはさせないんだから!」
大橋さんは大きな胸を出したカードに乗せて隠した。
そして胸の下に手を入れ、もぞもぞ動かす。
「え? ちょっとなにしてるの? イカサマする気でしょ?」
「違うもん。もうじろじろ見ないで。篠塚君のエッチ!」
「い、言いがかりだって…………」
だけどそう言われたら強く出られない僕は結局なにもできなかった。
そしてカードオープン。
さっきまで青ざめていた大橋さんは嬉しそうに宣言した。
「わたしは篠塚君を生け贄に捧げ、神のカード、『大天使いのりちゃん』を召喚する!」
「ええっ!? なにそれ!?」
「いのりちゃんの効果によりゴキブリを浄化し、わたしはゲームに勝利するのだ! 粉砕! 玉砕! 大喝采! はい。わたしの勝ちー。篠塚君は罰ゲームとして二度と歪んだ性癖の本を買っちゃダメだから!」
「ええ……。でも今のはずるだし……」
「ダメなの!」
大橋さんは机から身を乗り出した。
すると古い机の足が折れ、バランスを崩し、前に倒れる。
「きゃあっ!」
可愛らしい悲鳴と共にカードが宙に舞う。
「大橋さん!」
僕はなんとか大橋さんを受け止めた。
「いてて……。大丈夫?」
僕が大橋さんを労って目を開けると、そこにはお尻があった。
純白の下着がはっきりと見える。
そのまま目線を上げると大橋さんの嫌そうな、それでいて恥ずかしそうな顔があった。
「篠塚君のばかあああっ!」
結局僕の願いは叶えられ、罰ゲームとして隠し持っていたラノベは没収された。
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