2.迷いの森で
ヒトの住処とその手がかりを探すために、かばん達は今日も、ジャパリバスで旅をしていた。でも、彼女達は今、トラブルの最中にいた。
「もー!どうするの!?さっきから何回も同じところばっかり通ってるじゃない!」
いつもニコニコしているはずが、珍しくイライラしているのは、サーバルキャットのサーバルだ。
「アライさんは『こっちの方に進めば出られる気がする』って言っただけなのだ!出られるとは言ってないのだ!」
サーバルに負けじとイライラしているのは、アライグマだ。今、彼女達は森の中で迷子になっていた。この森は道が何個にも別れていて、まるで迷路のようになっていた。
「アライグマが任せてって言った時ってなんかいっつも大変なことになるよね!」
「任せたのはサーバルなのだ!」
この迷いの森から脱出するために、分かれ道にやってきた時にはどっちに進むかを必ず決めなくてはいけなかった。その時、アライグマが自分の勘を頼りにして欲しいと提案してきたので、サーバル達はアライグマにバスの運転を任せたのだが、一向に、森から抜け出す気配がない。
サーバルとアライグマがイライラしている理由は、その他にもあった。旅をする上で大切な食料であるジャパリまんが、もう尽きてしまっていた。新しいジャパリまんを、何処かで手に入れなくてはいけなかったのだ。
「ま、まぁまぁ、二人とも喧嘩しないで……ひとまず落ち着こう?」
二人の間に、かばんが割って入った。
「アライさんはみんなの役に立とうとして引き受けてくれたんだし、僕はもちろん、サーバルちゃんだって、アライさんのことを信用して任せたんだから。フェネックさんもそうですよね?」
かばんが、イライラしていたサーバルとアライグマをよそに、バスの座席の上でくつろいでいるフェネックに声をかけた。
「んー?んー、まぁ、そうかなあ」
「ほらね?それでも、ダメだった。でも、ダメだったのはアライさんのせいじゃなくて、たまたまですよ。ジャパリまんがあったら、僕がジャパリまんを分かれ道の度に一個ずつ置いて目印にしていたところだけど、なかったんじゃどうしようもないし……。とにかく、喧嘩しててもどうにもならないし、余計にお腹が空くだけだよ。どうすればいいか、もう一回みんなで考えましょう」
かばんがそう言うと、サーバルとアライグマは、静かになった。
「そうだね。お腹が空いてたせいでイライラしちゃってたのかも。ごめんね、アライグマ」
「アライさんも焦ってたのかもしれないのだ。ごめんなさいなのだ、サーバル」
二人が冷静になり、無事にお互いに仲直りをしたのを見て、かばんは微笑んだ。
三人はバスに戻ると、みんなで向かい合って後部座席に座った。
「そう言えば、この辺りにフレンズさんって、住んでないのかな。いたら道を聞けるのに……」
「こんな迷路みたいな森だもん、みんな道に迷っちゃうから、入りたくないんじゃない?」
「ジャパリまんを配るボスも全然見かけないし、そうかもしれないのだ」
「って言ってるけどー、どう思う?」
フェネックが、突然、誰もいない方を見て、誰かに話しかけた。
「確かにここにはみんな来ないけど、近くに誰かがいないわけじゃないよ!」
突然、運転席の方から、フレンズがひょっこりと顔を出したので、フェネック以外みんなびっくりして、座席から転げ落ちそうになった。
「だ、誰なのだ!?」
「びっくりした!!いつからそこにいたの!?」
サーバルとアライグマが、目を皿のように見開いて、そのフレンズに詰め寄った。
「キミ達が喧嘩してた時からだよ!すっごい大きい声だったもん、気になっちゃって来てみたら、なんだかこの、バスって言うの?面白いの見つけて、ラッキーって感じ!」
興奮気味に話すそのフレンズは、尻尾を大きく振りながら、後部座席の方に乗り込んできた。
「あ、私、ニホンオオカミ!この森の近くに住んでるの!よろしくね!」
「とゆーわけでー、このニホンオオカミさんが、私たちのことを出口まで案内してくれるみたいだよー」
「フェネック!なんでもっと早くに教えてくれなかったのだ!?」
「いやー、アライさん達がびっくりするだろうなと思ったら面白くってさー、つい」
「でも、僕、バスの近くにいたはずなのに、ニホンオオカミさんには全然気付きませんでした……」
「かばんさんが二人を止めに行った時に丁度この子が来て、私と目が合ったからねえ」
「そ!で、こっそり話しあって、それでビックリさせちゃおうって!結果は大成功!だね!」
「そだねー」
体全体を大きく揺らして喜ぶニホンオオカミと、いつもと変わらない落ち着いた様子のフェネックは、正反対だったが、妙に気が合うようだった。そんな二人を見て、かばん達は目を点のようにして、唖然としていた。
「っと、こうしちゃいられないんだ。早いとこ、この森を出なくっちゃね。ここ、セルリアンがわんさか出るから、みんな近寄らないんだよ」
ニホンオオカミのその言葉に、アライグマはゾッとした。
「そ、そうなのか!?」
「まぁ大きさは大したことないんだけどね。群れで襲ってくるから危ないんだ」
「それなのに入って来て大丈夫なの?」
サーバルが、心配そうに辺りを見回しながら聞いた。でも、ニホンオオカミは、平気そうだ。
「だってみんな、他所から来たんでしょ?何も知らないでこの森に入って来て、道に迷った挙句に喧嘩して、その声に気付いたセルリアンに食べられちゃったんじゃ、かわいそすぎるもん」
その言葉に、かばんはとても、安心した。
「僕達もニホンオオカミさんが来てくれなかったら、今頃大変なことになってたと思いました。ありがとうございます」
「ささ、話はひとまずこれくらいにして、出口に向かって出発!森から出たら、そのまま私の住処まで案内したげる!」
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