Welcome to The CIRCLE (Ms Sに捧ぐ)

フランク大宰

第1話 Welcome to The CIRCLE (Ms Sに捧ぐ)

Sはその日、大変疲れていた。好きでもない仕事が上手くいっていないのだ。上司に頭を下げ、外注に頭を下げる、そして部下には頭を下げさせる。彼は部下に怒鳴る。しかし、実のとこと部下に対して、然程、怒ってはいないのだ。これは一種の行事だ社会のなかにある形式の一つだ。だから、彼も誰にも悪いと、思っていない。 全ては金のた為だ。しかし、それだけでは還元されないほどに、心も体も疲れている。

彼は家に帰り、風呂にも入らずにシングルのベットに横たわった。そして、ワイシャツの胸ポケットから、タバコとライターを取り出して、口にタバコをくわえた。ライターの火が1LDKの狭い部屋に唯一の光をくわえた、タバコに火をつけてライターを閉じると、タバコの不均等で弱い光が唯一の光になった。彼はそれを眺めていると、寂しさが胸から込み上げた。「いったい、何のために俺は生きているのだろうか?

この先もつまらない、人生を送らなければならないのか?」

彼は彼自信に対して、いくつかの疑問が湧き出でた。しかし、誰もそれには答えてくれない。

不意にズボンからスマートフォンを取り出した。そして自分宛の文章を探した。現代科学の最高傑作が自分に見せてくれたのは、下らない文字の羅列だけだった。そのなかには、自分の付き合っている女からの言付けが、一つあった。「ここ、二三日、あなたと連絡がとれてません心配です。返事ください」

彼は悪いことをしたとは思えなかった。忙しかったのだ、だだそれだけ。

彼女とは大学の友人達が取り繕った、合コンで出会った。

その日、彼は合コンに対してやる気がなかった。せっかくの休みであったし、前日の夜からウィスキーを一本開けていた。大学時代の親友からの、どうしてもという誘いだったから行っただけだ、何の目的もなかった。レストランについたときも、15分ほど遅れていたし、胃はキリキリと痛かった。

彼女は左端の席に座っていた。彼は彼女の正面の席に座った。彼女は他の女達と比べて、地味な存在であった。眼鏡をかけていて、化粧もほとんどしていなかった、服もどこかのブランドものを着飾っている他の女達と違った。彼女は就活中の大学生に見えた。

彼は全体に向けての、軽い自己紹介のあと。彼女に声をかけた。

「君はどこで働いているの?」

彼女は少しごもりながら、「I社で受付をやってます」

彼は意外に思った、この地味な娘が受付嬢か

と。

彼女は続けた。

「私、こういうのはじめてで、しかも、昨日、飲みすぎちゃって、気分が悪いんです。ごめんなさい」

「謝る必要はないよ。酒が飲めるのは唯一の大人のステータスだからね、それ以外は大人なんてろくなもんじゃないよ」

彼女は笑った。

「ところで昨日は飲み会だったの?」

「いえ、宅飲みです」

「俺もだよ」

彼は彼女に興味が湧いてきた。軽くビールを飲みながら、酒の話だとか会社の話だとかをした。

彼女は芋焼酎が好きなようだった。本当に人とは見かけによらないと、彼は思った。

彼は不意にタバコを取り出した。すると右隣の男が(この男は知り合いでなかった。大学時代の友人がつれてきた、男だった)

「おい、ここは禁煙だぜ、当然だろ」といってきた。

「それは気づかなかった、申し訳ない。タバコの吸えない、ピザ屋があるとは思わなかった」

と彼は嫌みっぽく言った。

男も「とりあえず、ここは禁煙だから」と言った。

彼が男と話し終ると。目の前の彼女が店の入り口を指差しながら、「外に喫煙所あるよ」と言った。

「そうか、タバコ吸いにいっていいかな?」

「お供しまーす」と笑いながら、彼女は言った。彼らは共に席から立ち上がった。

すると、席に座っている男と女達は交番の前に貼られている、指名手配犯の写真を見るように、彼らを見ていた。

喫煙所に着くと、彼は青いフランスタバコを取り出し、彼女は駱駝の絵柄の入ったタバコの箱を取り出した。やっぱ人は見かけによらないと彼は感じた。

「喫煙者は今時、犯罪者だな」

「つまらない時代ね」と彼女は言った。

「50年代のフランスに戻りたいね」

「あなた、フランスに行ったことあるの?」

「昔ね」

「うらやましい、私も行きたいです」

彼らは喫煙所で映画の話をした。そして共通して好きな監督がベルナー・ヘルッオークだということがわかった。彼らは合わせて5本のタバコを吸った。そしてその後、合コンが終ると共に彼の部屋に帰った。

これが一年前の出来事だ。

ベットの上で彼女と出会った、一連の出来事を思い出した。彼はタバコを灰皿の上に潰した。そして、右の肘を目の上においた。目に写る暗闇がぐるぐると回り出した。そして彼は眠りについた。



きずくと、彼は地元の駅ビルのドーナツ型のオブジェの前に立っていた。このオブジェは、もう壊されている。だから夢の中に自分が居るとすぐに気づいた。すると目の前の金色のドーナツが回り始めた。このオブジェの名前はなんであったろうか?彼がそう考えると、

「サークルだよ、金色のサークル」

と誰かが彼に言った。彼が振り向くと、そこには黒い男がたっていた。男は190cmはあるであろう高身長で、黒いハットをかぶり、黒い3ピースのスーツを着ていて、黒いネクタイをしていた。肌の色も黒く、そして黒い杖を持っていた。

「そんなような名前だったきがする」と彼が言うと、

「駅ビルのような、人の集まる場所には、美しいサークル描かれるべきだと作者は考えたのさ」そして、「ようこそサークルへ、君は70億の中から選ばれた 、君は拒む事はできないよ」と黒い男は言った。男の顔はよく分からない。ただ目は黒くギラギラと輝いている。

男は杖で回るオブジェを指した。

「さー早く入りたまえよ、中には君の望むものすべてがある」

彼は一瞬考えたが、夢の中で何を悩むこともなかろうと思い、回るオブジェを潜り抜けた。黒い男もあとから続いた。

潜り抜けると、山小屋のミーティングルームのような、広い部屋に出た。右端に、下へと続く木製の階段が見えた。埃の臭いが鼻についた。

黒い男が彼の肩に手をかけた。

「友よ、ここは香港の海辺にある、とわる部屋だ。それ以上はなにでもないよ。しかし、見ててみな、君は驚くよ」と黒い男はたぶん笑いながら言った。

彼はなにもない木の部屋を見ていた。すると、だんだんと、見知った人々が薄く現れてきた。

初恋の相手に小学校時代の忘れてしまっていた友人達、高校時代からの腐れ縁、フランスにいた頃に共に生活していた友人達、大学時代、惚れていた先輩。彼らがだんだんと数をまして、現れた。そのうちに彼らは薄くはなくリアルな姿になっていった。そして彼らは手を繋ぎサークル状になって踊り出した。

「さー君も混ざりたまえ、時間は限られている」黒い男は言った。

彼は仕方なくサークルに混ざった。左隣には小学校時代の交通事故で死んでしまった友人が、右隣には部活動が一緒だった、女性(彼は少し彼女が好きだった)がいた、彼らと手を繋ぎ彼は躍りだした。

とても心が安らかに成った様に思えた。

彼は思い出した。これは悪魔の躍りだと、何かの映画で観たことがある。でも関係ない、これは夢なのだから。

しかし、彼は何かが足りない気がしていた。心にぽっかりと穴が開いているようだった。

そう思っていると彼女が階段から上がってきた。フランスに住んでいる頃に出会った、美しい蒙古(中国北部)の少女、彼は彼女とたいして話したこもなかったが、彼は彼女の事が一度も忘れられなかった、7年もの間。

彼は自分の心臓がバクバクと鳴り、体が震えるのを感じた。

彼女は彼を見つめながら、困ったように笑った。そして彼女もサークルに混ざった。

その瞬間、彼は全てが満たされた気持ちになり、自然と涙が溢れた。

しかし、サークルが一周半したところで、彼女はサークルから離れた。彼女は彼に向かい手を振り、階段の方へ向かい、そして階段を降りていった。彼もサークルから離れ彼女の後を追って行った。彼女と同じように、階段を降りようとしたとき、手を捕まれた。手をつかんだのは黒い男だった。

「いけない!彼女を追って行っては!」

「離してくれ!彼女を失いたくない、彼女はいつだって僕の全てだった。一度も忘れられない。彼女なしでは満たされない。彼女を手に入れなければならないんだ、それが生きる意味なんだ‼」彼は泣きながら叫んだ。

「それは許されない。おい、これは現実の世界ではないんだ。この階段を降りると、香港の大きな通りに出る。しかし、それは本物じゃない。映画のセットの様なものだ。君は現実の世界を生きなければならない、つまらなくても、どこにも救いがなくとも、生きなければならないんだ!そうすれば、いつか啓示は見つかる。とりあえず今は目を覚ますことが、大切だ、目を開けろ、そして現実と戦え!!」

「現実なんて糞食らえだー!!」

彼がそう叫ぶと。黒い男は黒い杖で彼の頭を殴った。





  彼はベットの上で目を覚ました。頭が痛い。

ワイシャツの袖が濡れていた。ベットの横の電子時計を見ると、AM5時 が示されていた。

彼は思い立ったようにスマートフォンを手に取り一年前に出会った、例の彼女にSMSを送った。短く簡潔な文章で。

彼はもう一度考えた。「俺は何のために生きているんだ?」やはり、誰もその問いには、答えてくれない。でも、答えてほしいとも思えなかった。



ベランダから青白い朝の光が部屋に射し込んできた。埃が雪のように舞っているのが見える。

そして埃の臭いが鼻についた。


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